一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです

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元ネタ

 時々、元ネタはあるんですかというようなことを聞かれることがあるのですが、
 これが元ネタだ、と明確にいえるものは多くないです。
 デビュー作の「戦鬼」は桃太郎を元ネタにしたものですが、その後の「ライタークロイス」や「漂う書庫のヴェルテ・テラ」なんかはいろいろな資料を読み込みこそしたものの、これというものはないですし「星図詠のリーナ」や「千の魔剣と盾の乙女」なんかも、リーナはNHKの「たんけんぼくのまち」に着想を得たり、フィンランド神話を参考にしたり、千の魔剣の場合はケルト神話を参考にしてますが、やはり元ネタ、というのとは違う気がします。
 で、まあMFで書いている「魔弾の王と戦姫」ですが、これなんかはデビュー作同様元ネタはあるんですね。

 12世紀ごろ、ロシアとヨーロッパの中間あたりにズィッターデン(Zhcted)という小さな国があったんです。ええ、もうググっても出てこないぐらい小さな国ですが。
 その国に伝わっていた事実をもとにした物語というか、英雄叙事詩的なものに「黒い弓の王と七姫」というものがあります。
 原文はラテン語とスラヴ語(スラヴ語はこのころまでに枝分かれしたのでかなり不安定)によるもので、当時のそのあたり一帯に伝わっていたさまざまな民話をつなげつつ書かれたそうです。
 西から来たひとりの弓の得意な若者が、七つの部族をまとめあげ、ズィッターデンという王国をつくりあげるまでの話です。
 七姫はそれぞれの国(というか規模としては部族とかそんな感じ)の姫とか王女だったりするのですが、
 以下、こんな感じです。

傲慢のエレオノーラ:土着の神を重んじ、キリスト教徒を低く見ていた。最初に主人公の若者に会い、弓で勝負して負けてからはしおらしくなった。あと嫉妬のあまり若者を凍った川の中に閉じこめて隠すとかしてた。物語万歳。ただ、一応最期は若者といっしょに死んだっっぽい。

憤怒のリュドミラ:フォークが転がるようなことでも怒りだすほど気性の激しい女性だったらしい。彼女の国は山の上にあって、強い男性を婿に迎えるとかで主人公の若者をさらって閉じ込めたりした。強いらしい。

色欲のソフィーヤ:七人の姫の中でもっとも淫猥、ようするにエッチだったらしい。主人公ともっとも多く子をなしたのは彼女であるとも書かれている。ただ、揉め事の仲裁や交渉は非常に上手で、攻めてきた軍を舌先三寸で追い返したりもしている。

怠惰のアレクサンドラ:持病は仮病で、出番は少ない。エレオノーラと親友だったらしいが、彼女が敵と奮戦している間に旅に出たり、主人公といちゃついたりしていた。その割に、エレオノーラが三日三晩戦って倒せなかった相手を棍棒(そう書いてあった)の一撃で倒すなど強さがわからず、このての物語のいいかげんさを証明する存在。

嫉妬のエリザヴェータ:主人公の若者に夜這いをかけたあと、しばらく出番がないと思ったらいつのまにか奥さんの一人になっていて読者がびっくり。エレオノーラによって凍った川に閉じ込められた主人公を助けたあと、今度は彼女によって高い塔の上に主人公は閉じ込められた。

強欲のヴァレンティナ:「黒い弓の王と七姫」には名前だけしか出番がない。

暴食のオルガ:貧しい生まれで、唐(当時の中国)と思われる国からヨーロッパ近くまでを旅していたらしい。飢えていたところを主人公の若者に食糧をめぐんでもらい、次の話ではもう奥さんの一人になってた。

 話はちょっと脱線しますが、10世紀ごろにはキリスト教がこのへんまで来ていてですね。
 この国、そのキリスト教と対立して、追い返したりしていたそうなんです。エレオノーラっぽいひとは実在したらしいし。で、まあキリスト教も怒って「悪七姫」というか「きっと悪魔にとりつかれたのだろう七姫」みたいな扱いで彼女らを呼んだそうです。上の二つ名はそんな感じで七つの大罪に当てはめてつけられたそうで、まあヴァレンティナさんとか名前しかないのにとてもかわいそうだと思うけど。

 ともかく、主人公とこの七姫が冒険とドロドロの愛憎劇(火だるまになったひととかいたしね。次の話では元に戻ってたけど)の果てにロシアとヨーロッパの間に国を興したのが「黒い弓の王と七姫」なのです。

 で、それを元ネタにして書いてるのが拙著「魔弾の王と戦姫」というわけです。

 もちろん僕はラテン語もスラヴ語もわかりませんし、日本語に翻訳したちゃんとした本なんてありません。
 手元にあるのは、数年前にロシア旅行した際に会った日本大好き(好きなアニメは鋼の錬金術師と銀魂)なロシア人が「クラナドの会話をわかるように読み上げてくれたらこれをやるよ」と言って僕にくれた、わら半紙を錆びたホッチキスで束ねたものに、すっげえでたらめな日本語で書かれた「黒い弓の王と七姫」だけです。
 そんな元ネタのこの作品が、ここまで好評いただいたことを知ったら彼はどのような顔をするだろうかと思うとなかなか楽しいです。

 今後も「魔弾」シリーズをよろしくお願いします。


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by tsukasa-kawa | 2012-04-01 23:26 | 日常雑記