一〇八(仮)

asakust.exblog.jp

ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、それから片桐雛太さんの魔弾画集、11月25日発売です。よろしくお願いします。

ブログトップ | ログイン

8月21日のお話

「これは正直に言うと自分の好みから少し外れるんだけど、○○について書かれているのってこれしかないから……」
 小説に限らず、漫画やアニメ、音楽などでも何らかの創作物に触れて、そんな思いを抱いたことはありますか? 僕は割とあります。
 で、耳なし芳一ですよ。有名な話なのであらすじをわざわざ語る必要もないとは思うのですが、一応説明しますならば、盲目の琵琶法師で、平家物語の弾き語りが得意な芳一のもとに、ひとりの武士(女性という説もある)が現れる。彼に強く頼まれて、芳一は自分の弾き語りを聴きたいという者たちのもとへ足を運び、平家物語、とくに壇ノ浦の合戦について演奏する。すっかり気に入られた芳一は毎晩そこへ向かうのですが、相手の正体が平家武士の怨霊だと見抜いた和尚が、芳一が連れ去られないよう身体中に経文を書かせるも、耳の部分だけ忘れられてしまい……というお話ですね。
 しかし、怨霊たちはどうして平家物語を聴きたかったのだろうか。平家物語って、清盛を悪し様に罵るところからはじまるわけですよ。秦の趙高、漢の王莽などと同列に扱われるわけで。当然その先も似たような感じでして、壇ノ浦でもばったばった倒されていくわけで。そりゃ怨霊もすすり泣くわい。倒されるのは史実だけど。
「でも、それしかないから」というのが、理由のひとつとしてあったんじゃないかと思うわけですよ。源平盛衰記? あれもっと源氏贔屓だし。愚管抄なんかはいってしまえば思想書だし。
 そんな平家ですが、現代では平清盛も再評価され、大河ドラマでも二回主役を張り、源平合戦についてもさまざまな創作物が生み出されているわけです。
 怨霊たちも「平家物語は古典だから大事にするとして、それにばかりこだわることもないんじゃない?」と思ってもおかしくないでしょう。平家の盛衰について書かれているのが、もはや平家物語だけではなくなったのですから(まあ創作物界隈における源平のキャラクターは義経が圧倒的なんだけどね。あと与一?)。
 現代の平家武士の怨霊は、琵琶法師ではなく、新たな平家の物語を生みだそうとしているクリエイターのもとに行くのかもしれません。「違うよそこ!わかっちゃいない!」とか言いだしたりする可能性もあるけど。



web拍手を送る
by tsukasa-kawa | 2017-08-21 13:43 | 日常雑記