一〇八(仮)

asakust.exblog.jp

ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、それから片桐雛太さんの魔弾画集、11月25日発売です。よろしくお願いします。

ブログトップ | ログイン

9月30日のお話

「突然ですがクイズです。特殊能力を見世物にして民衆をおおいに楽しませ、最後にはタヌキの姿を捨てて人間社会に溶けこんだタヌキのお話といえば?」「分福茶釜?」「いいえ、平成狸合戦ぽんぽこです」
 タヌキだってがんばってるんだよォ。まあ人間と戦うのであれば、やはり物理的な攻撃方法は必要でしたね。具体的には絶 天狼抜刀牙とか。分類上はネコ目イヌ科なんだし(でもタヌキ属です)。
 ぽんぽこについてはこれぐらいにしておくとして、更新が遅れてしまっていることですし(ごめんね。仕事がね)「分福茶釜」まいりましょうか。ぶんぶくちゃがま、ぶんぷくちゃがまのどちらで呼んでもよいみたいです。

 ある日、古道具屋が和尚様からひとつの茶釜を買い取る。その茶釜に水を入れて火にかけると、茶釜に化けていたタヌキが熱さに耐えかねて正体を見せる。
 正体といってもタヌキの胴体は茶釜のままであり、そこから頭と四肢が出ているような姿をしている。
 タヌキは仲間との化け比べで元に戻れなくなり、ひとまず茶釜を装って戻る方法をさがしていると説明し、同情した古道具屋は店に置いてやることにする。
 タヌキはお礼にと、綱渡りをする茶釜という見世物で民衆を楽しませ、古道具屋は豊かになる。

 傘をさし、あるいは扇子を開きながら綱渡りをする茶釜タヌキの挿絵を、どこかで見た方もいるのではないでしょうか。バージョンによっては火にかけられた時点で逃げだしてしまって話が終わるとか(言われてみればわからんでもない)、結局タヌキは茶釜から元に戻れず死んでしまい、和尚様に供養されるというものもあるようです。逃げだしてしまったものを除いて、タヌキが元の姿に戻ることができたというものはありません。
 民衆を楽しませ、古道具屋に楽をさせてあげたのですから、昔話のセオリーに従うなら元に戻ることができていいはずです。なぜ、そうならなかったのでしょうか。

 和尚のもとから逃げだした話を除けば、タヌキは古道具屋に居続けます。古道具屋が引き留めたとか、何らかの手段で逃げられないようにしたという話は見当たらなかったので、タヌキ自身の意思で留まったと思われます。
 このタヌキはただのタヌキではなく、化け狸です。
 おそらく、この種の特殊な存在は、正体を知られたら人里に居続けることができないのでしょう。これまでの昔話を振り返っても、舌切り雀はお爺さんに飼われている間はただの雀で通していましたし、花咲か爺さんに出てくる犬はすぐに命を落とし、犬でないものになります。
 古道具屋のもとに留まり続けることを選ぶなら、タヌキは正体を隠し続けることのできる茶釜の見世物に徹するしかなかったのでしょう。
 茶釜以外のものにならなかったのも、茶釜という見世物として受け入れられてしまったためかと思われます。別のものに化ければ、正体を知られてしまうかもしれない。また、儲けることができなければ、やはり古道具屋のもとにはいられない。タヌキは、店に置いてもらうことをそう捉えていたと思われます。リスクをとって大胆に方向転換などと、口で言うのは簡単ですが、当事者になるとそれが難しいのは現代にかぎったことではありません。受け手がよく知られているものに親しむのも当然のことです。
 タヌキは茶釜から引き返せなくなりましたが、本来のものではないスタイルで溶けこむというのも、なかなかしんどいものだということでしょうか。



web拍手を送る
by tsukasa-kawa | 2017-09-30 13:08 | 日常雑記