一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、それから片桐雛太さんの魔弾画集、11月25日発売です。よろしくお願いします。

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10月17日のお話

 家を焼いて、旅立つ。
 漫画やアニメ、映画などで、見たことがある場面ではないでしょうか。
 その多くは、目的を果たすまで帰らないという決意の証なわけですが、旅は非常に困難なものです。生まれ育った町や村にいれば、こんな目には遭わなかったのにというような数々の経験を経て、彼らは成功をつかみとります。おそらく、その影には同じように家を焼いて旅立ちながら、志半ばで倒れていった者が数多くいたでしょう。

 さて、僕の中では、貧しい生い立ちとか関係なく、不幸な話を書きたくてたまらなかったのではないかという疑惑のあるアンデルセン作「マッチ売りの少女」です。
 年の瀬に、父親に命じられ、寒い中マッチを売ろことになった少女のお話ですね。マッチを擦ったら次々に幻が現れ、最後に炎の中に祖母の霊が現れて少女の魂を天国へ連れていった、という結末で締めくくられます。死によって彼女は最後に救いを得た、ということのようです。

 のっけから詰んでいます。年の瀬で慌ただしい町。恐ろしい父親。売れやしないマッチ。売るまで帰れない状況。マッチに出てきた祖母の幻影が意味する、守ってくれる者の不在。そのマッチで家を焼いて炎の旅立ちをした方がよかったんじゃなかろうか。とはいえ、そう思い切ることはなかなかできないのもたしか。ぶっちゃけ町の外は怖いし、どうすればいいかわからないものだしね。
 ですが、本当に彼女が助かる道はなかったのか。年の瀬なら教会がにぎわっているはずで、クリスマス・キャロルよろしくクリスマスの寄付金を集めた直後であったはず。寄付金集めがイギリス限定だったとも思えないので、教会に行けば空腹はともかく、寒さをしのぐことはできたかもしれません。父親について話せば、運がよければなにがしかの力になってくれた可能性もあります。父親の人柄を知っているだろう近所の住人なら、夜の間ぐらいはかくまってくれるかもしれない。
 思い切るのは怖いものです。上に書いたことだって、それで一晩しのいでも延命しただけに過ぎず、父の怒りを買って状況が悪化する可能性もあるでしょう。
 ですが、凍えて動けなくなってしまえば、本当に幻に看取られて終わってしまう。

 少女は生きることに疲れ果てていたのでしょうか。では、マッチを擦ったら望むものの幻が出てきたのはなぜなのか。もう死ぬから幻ぐらい見せようということだったのでしょうか。食べ物やストーブの幻は、生きたいという少女の思いだったのではないでしょうか。死を選ぶのだって、怖いものです。
 もう耐えられなくなったら、いえ、耐えられなくなる前に行動しなければ、最後はこうなるよという見方もできるのではないでしょうか。死者の思いを生者が決めつけるのはよくないことでしょうが、祖母だって、孫の魂をこんなんで連れていきたくはなかったでしょう。死神かよ。



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by tsukasa-kawa | 2017-10-17 23:49 | 日常雑記