11月8日のお話

 ネーズーミーが出たぞー!
 ネズミの脅威といったら、さいとうたかおのサバイバルがやはり群を抜いて上手いというか恐ろしく描いていると思うんですよ。食糧を食い荒らし、相棒のフクロウを叩き潰し、昼夜かまわず少年を脅かすネズミの大群。結局、少年はねぐらを放棄するしかありませんでした。まあ対処しようがねえっすよアレ。現代でもネズミっておっかないし。二次元でも別の意味でおっかないし。そりゃあ二十二世紀の猫型ロボットも地球破壊爆弾を持ちだすってもんですよ。ドラえもんは おどろいて からだが まひした!

 まあネズミについて話すのはこれぐらいにしておいて「ハーメルンの笛吹き」です。
 有名な話なのでみなさんご存じだと思いますが、ドイツはハーメルンの町にネズミが大繁殖し、にっちもさっちもいかなくなっているところへひとりの笛吹きが現れ、謝礼をくれるならと人々と契約し、笛でネズミの群れを誘導して川へどぼん。しかし町の人々はネズミの脅威がなくなったら契約を忘れて出てけ出てけの大合唱。笛吹きが再び笛を吹くと、今度は町の子供たちが笛吹きに誘導され、彼とともに町を去ったとさ。とっぴんぱらりのぷぅ。と、そんなお話ですね。

 笛吹きに連れ去られた子供たちの行方はわかりません。町の外にある洞穴へみんな入っていき、その洞穴は内側から閉ざされ、誰も二度と戻ってくるとはなかった、とも、一人か二人だけが帰ってきて、この話を語り継いだともいわれています。
 なぜ、笛吹きは子供たちを連れ去ったのか。
 話を見るだけならば、町の人々が約束を守らなかったため、報復として連れ去ったのでしょう。まして町の未来を担う者たちをがばっと(といっても130人らしいので根こそぎというほどではないと思うけども)連れ去ってしまえば、町の衰退は避けられません。生まれたばかりの子供がそこそこ大きくなるのに10年、そこから町を支えるひとりの若者として成長するまでにさらに5~10年と考えると、おっそろしい話です。

 子供たちが連れ去られた、ということについてはさまざまな説があります。東方への移民団に参加した、十字軍に参加した、流行病(ネズミと絡めてペストを示していると思われる)で亡くなったのを、笛吹きを死に神になぞらえてこう表現した、などなど。
 さまざまなバージョンの旅立った説についてですが、ハーメルンの子供たち、というのは江戸の町人を江戸っ子と呼ぶような比喩表現であって、実際は青年に相当する男女が新天地なり冒険なりに賭けたんじゃないの、という考えのようです。

 とはいえ、それならどうしてそう語り継がれなかったのか、というのが不思議ではあります。すごい笛吹きに誘われて、子供たちが夢と希望を抱いて東へ旅立った……という話にすることに、何か不都合でもあったのでしょうか。子供たちを売買(児童を奴隷として売り買いするのは、当時では割とあることだった)したのだとしても、何百年後かに書き綴るならともかく、隠すようなことではないはずです。

 流行病の婉曲的な言い回しでない場合。
 この記録を残した者にとって、子供たちは笛吹きによって連れ去られたのでなければいけなかったと、そう考えることはできないでしょうか。
 たとえば、と想像をふくらませてみます。町にとって不名誉なことは、子供たちが大人に愛想を尽かすことでしょう。大人たちはネズミをろくすっぽ退治できず、笛吹きとの約束も守らないという二重の醜態を見せました。子供たちは、この町に、あるいは自分たちに未来がないことを漠然と感じとったのかもしれません。
 一方で、子供たちから見れば笛吹きはヒーローです。大人たちが手をこまねいていたネズミを、たやすく一掃したのですから。頼もしく見えたのではないでしょうか。町を捨ててついていくと決意した可能性はあります。まあ、ネズミが一掃されても、それだけネズミがはびこった=衛生環境的にアレな町ってのは変わってないでしょうからね……。もちろん、子供たちに見限られた、なんて記録に残すのはつらい、それなら連れ去られた、と書いた方がいい。
 先に書いた通り、想像です。ですが、もしかしたら、ハーメルンの笛吹きはそういうお話だったのかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-11-08 23:58 | 日常雑記

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