一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、それから片桐雛太さんの魔弾画集、絶賛発売中です。よろしくお願いします。

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新刊紹介・他

 今年も残すところあと十数日となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。年末年始は休日にする旨を発表したお店など出てきまして、僕の見聞する界隈では話題になっていますが、個人的にはおお、懐かしいのうという感じで。
 というのも僕が小学生ぐらいの時分、まあ30年ぐらい前ですね、そのころはそういうお店が珍しくなかったんですよ、だから年末の時点で買うもの買っておかないと冬休みの宿題に必要な道具がないのが後でわかり、新学期開始ぎりぎりでようやく文房具屋が開くのを待って駆け込み~なんてことがありました。そういう意味ではコンビニの存在は非常にありがたかったのですが、当時のコンビニは二十四時間じゃなかったし、いまほど仕事量も多くなかったしで、いまのコンビニと同じように考えるべきではないのでしょう。
 年末年始は稼ぎ時ではありますが、それにともなって無茶ぶりも多発してしまうので、今回の件はいいことだろうと個人的には思っています。
 世間話がすんだところで、昨日の20日は富士見ファンタジア文庫の発売日でした。
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細音啓   キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦3

 1、2巻から変わってミスミス隊長が表紙を飾る3巻。次巻は来年の春頃予定だそうで。興味を持たれたらぜひ。

 さて、冒頭の挨拶で無茶ぶりについて昔語りをしましたが、フィクションにおいても無茶ぶりは珍しいものではありません。むしろフィクションだからこそ多用されています。「40秒で支度しな」「3分間待ってやる」などはとくに有名でしょう。3分で何ができるっちゅうねん(弾丸を装填したり滅びの呪文を教えてもらったり)。新しいマシンや設備、緊急時のシステム使用等における「○日かかります」「その半分でやれ」は、何らかの作品でお目にかかったことがあるのではないでしょうか。
 そして、それは教科書に載るような作品でも同様なのです。というわけで「スーホの白い馬」まいりましょうか。

 ある日、遊牧民の少年スーホは、草原で白い子馬を発見して連れ帰る。スーホは馬とともに寝起きするほど大切に育て、馬もその愛情に答える。
 数年後、領主が娘の結婚相手を決めるべく競馬大会を開き、スーホも白い馬とともに出場、見事に優勝する。
 しかし、領主はスーホの身分が低いことを理由に結婚を認めず、銀貨を3枚渡し、さらに白い馬を渡すよう要求する。スーホは断る。
 領主はスーホを痛めつけ、白い馬を奪う。命からがらスーホは自分の家へたどりつく。
 白い馬は領主のもとから脱走するが、領主の部下が射かけた矢を受けて重傷を負う。スーホのもとに帰ってきたところで息絶える。
 幾晩も眠れなかったスーホだが、ある晩、ようやく眠りにつく。夢の中に白い馬が現れ、自分の骨や筋を使って楽器を作ってくれと頼む。
 そうしてできたのが馬頭琴である。

 未知の楽器を作れっていうのはけっこうな無茶ぶりじゃねえかなあ……。
 いや、わかるんですよ。主とともにあることを望むって。でも、たてがみとか尻尾の毛を切りとって肌身離さずとかそんなんじゃ駄目なんけ? だいたい死んでから何日たっとるねん、君。「ご主人、まず埋葬した俺(いい感じで腐敗がはじまっていると思われる)を掘り返してバラしてくれ」ってハードル高いよ。家族からも「あの子は馬を愛するあまりついに……」とか思われるよ。
 未知とはいえ、さすがに馬頭琴がモンゴル族において原始の楽器であるとは思えません。ひとつの完成形となったのが馬頭琴だとしても、それ以前から部族ごと、あるいは家族単位でさまざまな名もなき楽器がつくられていたのでしょう。そう考えれば、スーホが馬への愛情から、これまでにない楽器をつくろうと思った、と考えることもできます。とはいえ、馬頭琴を作ったスーホも実際に弾いてみて「この筋は傷んでいてちょっと……」とか思ったこともあったのではないでしょうか。
 ひとつ間違えれば妄執になりかねませんが、おそらくここで終わっているからこそ美しいのでしょう、この物語は。



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by tsukasa-kawa | 2017-12-21 21:32 | 新刊紹介