一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、それから片桐雛太さんの魔弾画集、絶賛発売中です。よろしくお願いします。

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結局、淡々とSSを書くことにしたでござるの巻

 おはようございます。ひたすら眠いですが。

 どうでもいい言い訳をするとですね。
 一応4/1に向けてそれっぽいものを考えてはいた。
 やってみると、エキサイトブログではできそうにないと知ってフテ寝。

 4/1がくる。おもしろおかしい嘘を考えつけない。
 とりあえず仕事をする。
 考えつく。書きはじめる。
 仕事その他の理由により外出。
 帰宅。
 外では雨がざーざー降ってるが書き続ける。
 雷までごろごろ鳴ってきたので布団に潜りこんでがたがた震える。そのままうとうと。

 目を覚ましたら4/1が終わっていた。○▽○!

 まあ、あれですよ。世界標準時間ではまだ4/1ですよ。うん。

 で、まあSSなので、誰でも楽しめるというものではないんですけれどね。僕のブログだからいっか、というか。
 ぶっちゃけますとライタークロイスという僕が少し前まで富士見書房で書いていた作品のその後をちょろっと書いたもので、5巻の終わり方に満足しているひとは絶対見ちゃ駄目です。ぐらい。





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 春のあたたかな陽射しが皇宮の庭園に降りそそいでいる。
「雲ひとつない快晴ですよ」
 よかったですね、と嬉しそうな女官の声を聞きながら、ファリア=アステルは鏡に映る自分の姿をぼんやりと眺めた。薄く化粧をした顔。まとっているのは水色と白を基調としてつくられた豪奢なドレスだ。腰から下は薄い布地をいくつも重ねたつくりで、背中が大きく開き、腰の後ろには鳥の翼を思わせる飾りをあしらっている。金色の髪の上には、林檎の枝でつくりあげた花冠。
 帝国において、女性が林檎の花冠をかぶるのは一つの場合しかない。
 扉が外側から叩かれた。立ちあがりかけたファリアを制し、女官が応対に出る。扉の外にいる人物と一言、二言会話をかわし、ファリアを振り返った。
「花婿さまがいらっしゃいましたよ」
 その一言でファリアがとった行動は、頬をかすかに染めて反射的に鏡を見直すことだった。女官の技量は確かだが、それでも緊張する。
 半開きだった扉を、女官が大きく開ける。
 そこに、銀色の髪をした若者が立っていた。直線的な銀の装飾をほどこした黒い服を、どこか窮屈そうに着ている。左腕に巻きつけているのは赤い帯。
 普段は櫛すら通していない銀色の髪が、丁寧に香油まで使って整えられているからかいつもよりずいぶんと大人びて見えた。
 若者はファリアを見て、そのままそこに立ち尽くす。ファリアは彼のところまで静かに歩いていった。黒曜石をのような瞳は、じっと自分に注がれている。
「どうした? 呆けた顔をして」
 腰に手をあてて、ファリアは自分の花婿となる男を見上げた。
「見惚れるほど私が美しいか」
 若者は即座に首を縦に振る。
「きれいだよ」
 そんな言葉が飛びだした。ファリアはおもわず口元をほころばせかける。この男のことだから意識して言ったのではないだろう。そういう真似ができるほど器用な人間ではない。
 だからこそ、それは心からの言葉で。褒めてもらった自分が嬉しくて。
 でも、それを顔に出すのは癪だったので――少し手を伸ばして、男の唇をつねった。
「何をするんだ」
「いや、なに。今後、卿は同じような言葉を少なくとも四人には言うのかと思うと少し腹がたってな」
 言ってから、本当に腹がたった。
 若者は返答に困ったのか小さく唸って頭に手をやり、指先に触れた香油に気づいたのだろう。いつものように髪をかくことはなく、離した。
「言う、かもしれないけれど」
「けれど、なんだ?」
「でも、いま君が……その、なんだ、美しいというのは変わらないよ」
 若者の真摯な態度に、今度言葉に詰まったのはファリアの方だった。なにより「四人」のことはファリアも承知している。むしろ、積極的に勧めた側であった。
「すまなかった」
 再び男の唇に手を伸ばし、さきほどつねった箇所を細い指先でさするようになぞる。若者がさせるがままに立っているのを確認し、唇からそっと手を離した。そこからもう少し伸ばして若者の首にまわし、自分は爪先立ちになる。唇を重ねた。完全な不意打ちに若者は驚いたようだったが、ファリアに負担をかけないようわずかに頭を下げ、そうっとファリアの腰に手をまわす。
 さきほどから二人の様子を遠巻きに眺めていた女官は、あげそうになった声をとっさにおさえ、邪魔にならないよう息すら潜めて微笑ましそうに見守っていた。


「それではお二人とも。そろそろ参りましょうか」
 女官の言葉で、二人は我に返った。照れくさそうに、気恥ずかしそうにお互いの身体を離す。どちらからともなく手を取りあって、部屋を出る。
「私のところへ来る前に、どこかに行ったりしていたのか」
「陛下に拝謁してきたよ」
 長い廊下を歩きながら、若者が言った。現在の帝国の皇帝はハイラムである。若者より十近く年上の、ファリアの兄だ。
「兄上は何か言っていたか」
「妹を頼む、って」
 ファリアは肩をすくめた。
「兄上にしてはずいぶんと人間らしい言葉だな。もっと長いものではなかったか」
 若者は苦笑する。さすが兄妹だ、と内心で思った。


 ファリアの言うとおりで、実際はこのようなものだった。
「卿には卿なりの不満があるやもしれぬ。一個の騎士として誠実に、堅実に生き、ただひとり定めた女性と生涯を添い遂げる、という道が確かにあったのだからな」
 常の冷淡な表情で、三十代にさしかかったばかりの若い皇帝ハイラムは言葉を続けた。
「だが、現実がそれを許さぬ。皇帝を継ぐ者として、卿以上に適した者がおらぬ。血筋や技量は瑣末だ。幸いなことに卿は、あれの生まれについてよく知っている。加えて、人柄も能力も極めつけに優秀というわけではないが、問題があるということもない」
 若者としては恐縮です、とかしこまるしかない。後にクローディアにこのことを話したとき、それは陛下としては最高の賛辞ね、と言っていたが、この素直さに欠ける話しかたは兄妹共通だな、と若者はしみじみと思ったものだった。
「妹のことだが……なに、幸せにしようなどと考えなくてよい。あれは子供のように勝手に動きまわる。そして、子供とは違ってあるていどの分別はあるし、身体も頑丈だ。時々目を向けて、かまってやればいい」
 まるで犬や猫に対するような言い方である。さすがに心配になり、それでよろしいのでしょうか、と言ったところ
「卿は側室を四人ほど迎えるのだろう。あれの相手ばかりするわけにもいくまい。そうだ、前から聞きたかったのだが、どうして四人なのだ」
 突然問われ、若者は正直戸惑い、うろたえた。だが、まさか皇帝の問いに黙っているわけにもいかない。それに、これは妻となる者も、彼女たちも含めて話しあい、決まったことなのだ――その日の夜、胃を痛めた挙句にうなされたが。
 正直に答えた。
「この五人なら……彼女たちなら愛せると、そう思ったからです」
「男女問わず殴られるだろう台詞だな」
「僕もそう思います」
「気にするな。市井の一個人ならばともかく、いまの卿には子を残す義務がある。戦続きで人材が減っている現状では尚更だ。潔癖な人間は眉をひそめるかもしれぬが、潔癖さだけでは帝国を統治できぬ。話を戻すが、つまり、いまの卿では五人が限度だと」
「はい」
「だが、主目的は子を残すことだ。別に愛がなくてもかまわぬと思うが」
「むしろ、生まれてくる子のためにもあるべきだと思いますが」
 それに、情の通じていない女性と身体を重ねることに、若者には抵抗がある。
「いきさつは、どういったものだったかな。妹から強く勧めたそうだが」
「そうですね……。彼女、というより彼女たちですか。話しあいを既に済ませてまして」
「話しあいというのは、卿の恋人とか」
 若者には、既に恋人がいた。ファリアとは対照的な、静かで控えめな娘だ。騎士の規定により結婚はできなかったが、内縁の妻といって差し支えない関係である。
 若者は、皇帝になりたいと思ったことはない。だが、いずれハイラムの後を継いで皇帝にならなければならなかった。彼の行動が、周囲の状況が、それ以外の道を閉ざしたのだ。
 そして、そうなればファリアを妻に迎えるのは政治的に当然の結末だった。
 若者が皇帝になることに不満を持つ者がファリアを担ぎだす恐れがあるし、ファリア以外の者を正妃とすればこれまでの血脈が絶えることになり、反発を呼ぶ可能性がある。
 しかし、それは恋人だった者を日陰の身に置く行為でもあった。
 それゆえ、若者は皇帝になれという話を持ちかけられたとき、帝国を出ようと決断するにまで至ったのだが。
 既にファリアと話しあったあとの彼女に、説得されてしまったのだった。

「あなたが私を愛してくださっていることは、わかっていますもの」
 恋人としての仲が長くなり、彼女はその表情も、口調もずいぶんとやわらかいものになった。黒髪も伸ばすようになり、より女性らしさが滲みでている。
「私にはわかります。あなたが皇帝になっても、そのことは変わらないと。あなたはそういう方です」
「それはもちろんだけど……でも、君はそれでいいのかい」
「まったく口惜しくない、と言えば嘘になってしまいますが」
 彼女はそっと微笑んだ。
「嬉しい気持ちもあります。あなたには為すべきことがあって、それはあなた以外の誰にもできないことで」
 ただ、それには助けが必要で。
 彼女だけでは、そのすべてを支えることができなくて。
 それでも。
「あなたのなさることを、私なりに助け、あなたを支えることができるのならば」
 それは、とても嬉しいことです。
 そう彼女は締めくくった。

「惚気か」
「…………」
 聞いたのはあなたではないか、という文句は心の奥底に封じこめた。
「まあ納得しているのならばよいか。他の三人についても、似たようなものなのか」
 若者は無言でうなずく。うなずいただけの非常に曖昧な返答だったが、無理もない。
 嫌いならばそう言ってほしい、と言われて、とっさに答えに詰まったのだ。
「お互い納得ずくならば、多少不道徳でもよいではないか」
 とはいえ、このことについては、どれだけ彼女やファリアに、そして他の女性たちに感謝してもしたりないほどだった。
 ふむ、とハイラムは小さく息をつく。
「複数の異性を愛するという感覚はいまひとつわかりかねるが、妹を愛しているのならばよしとしよう。醜聞沙汰さえ起こさなければよい。出来のいいとは言いかねる妹だが、くれぐれも、頼む」


「私は、結果的にはこれでよかったと私は思っている」
 ファリアの言葉が、彼を回想の世界から引き戻す。
「皇帝には後継を残す義務があるからな。まして、避け得ぬ戦をいくつも控えている矢先だ。帝国の十年後、二十年後を、ましてや聖獣と騎士を手放したあとのことを考えれば、皇族の子はいくらでも必要になってくる。むろん私も卿の子をたくさん産んでやる気はあるが、十人二十人というのはさすがに無理だ」
 深刻さを打ち消すためだろう、故意にあけすけな言い方をファリアはした。それをわかっていながら、それでも若者の頬はかすかに赤く染まる。
「欲を言えば、もっと愛妾の数をそろえるべきだ。せめて十人はほしい」
 だが、とファリアは首を横に振る。
「騎士皇帝ではない卿には、少々厳しい注文だからな。まあ五人がかりならば、どうにか必要な数は産めるだろう。卿にはせいぜい励んでもらわないといかんが」
「……うん。まあ、がんばるよ」
「もう少し気の利いた文句を言え」
 ファリアは苦笑する。
「よかったと思う理由はもうひとつある。――いまの卿には、あのときに比べて甲斐性というものがそれなりにあるからだ」
「甲斐性?」
「私がついていてやらないと駄目だ、と思うところは変わらずあるが」
 指をたてて、からかうようにファリアは言葉を続ける。
「他の女に愛されても仕方がない、と思えるていどには成長した。私だけでなく、私たちを愛せると……誰かをないがしろにしたりはせぬとも思った。卿も、そう思ったからこそ受け入れたのだろう」
「それはそうなんだけどね」
 その結論に至るまでの若者の葛藤は、尋常なものではなかった。連日悩み続け、髪に白髪がいくつも混じった。銀髪であるために当人も含めて気づくのが遅れたが。
 休暇を申請し、自宅で丸一日頭を抱えていたことも一度だけある。一度だけだったのは、そもそも丸一日休むことすら贅沢という状況だったからだ。
 皇帝には後継が必要であるという、ならば仕方がない、とほとんどの者が納得するだろう『理由』が用意されていたことも、若者を苦悩させた一因であっただろう。
 そうすることが現実を考えれば最善だから、という理由だけで愛妾を受けいれることは、若者にはできなかった。
 最終的には若者も覚悟を決め、決意を固めて、彼なりに『不道徳』を納得して受け入れたのだが。恋人にも、ファリアにも、一生頭があがらないだろうと彼は思ったものだった。


 まもなく廊下が終わる。大広間が見えてきた。
 そこには帝国を代表する貴族や麗人、騎士や高官たちが居並び、花婿と花嫁の入場を待っている。祝福の声を上げるその瞬間を、いまかいまかと待ち望んでいるのだ。
「さあ」
 若者の手を握るファリアの手に、かすかな力と熱がこもる。
「新しい戦のはじまりだ」


※公式です
※2011年12月追記:ええと、上記の公式ですも含めてネタだったのですが、どうにも紛らわしく混乱させてしまったようで申し訳ありません。消したらもっと混乱しそうなので、二重線使いつつ説明する形をとらせていただきました。
いろいろな意味で白けさせてしまって申し訳ないです

by tsukasa-kawa | 2009-04-02 08:43 | ライタークロイス