一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです

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8月22日のお話

 皿屋敷ですよ。僕は番町皿屋敷という名前で覚えていたのですが、それは皿屋敷という怪談の江戸を舞台にしたバージョンなのですね。播州姫路が舞台の場合は播州皿屋敷というそうです。
 で、古典だけあって細部の違う話がけっこうあるのですが、番長皿屋敷だと、
・お菊という娘が下女として青山播磨守に仕える。
・お菊が播磨守の大切にしている皿を割ってしまう。
・播磨守はお菊の中指を切り落とし、それでも気がおさまらずに手打ちにすると言って監禁する。
・お菊はどうにか逃げだすも、古井戸に身を投げる。
・その後、古井戸から夜ごとに、皿の数を数える声が聞こえるようになる。また、播磨守の妻が産んだ子は中指を失った状態で生まれる。
・やがて、事件が公儀の耳に入って播磨守は所領を没収される。
・それからも古井戸の声は絶えなかったが、ある和尚が経文を唱え、皿を数える声に合わせて「十」と付け加えると、声は「あらうれしや」と言って、それきり聞こえなくなる。
 だいたいこんな流れですね。
 しかし、お菊が皿の数を数える理由って何だろうか。皿の数を数えて一枚足りないって嘆きたいのは、普通は皿を割られた方じゃないのか。
 他の怪談がそうであるように、お菊もまた怨念や執念を抱いて化けて出てきたと思われるわけです。
 皿を割ってしまったことを悔やんでいるのであれば、足りないなんて言い方をするでしょうか。足りないのはむしろ切り落とされてしまった指ですよ。
 十枚の皿が、かつての平和な生活の象徴ということだろうか。しかし、子供の指、播磨守の破滅という話の流れからして、お菊が播磨守を恨んでいるのは間違いないのです。しかも、お菊は幽霊として現れながらも、播磨守に取り憑いて殺すというような真似はしません。播磨守は公儀によって裁かれ、破滅するのです。お菊の声がきっかけとなったにしても。
 であれば、お菊の台詞は恨み言、なのではないだろうか。
 皿の数を数える声は、今風に言えば告発状であり、自分が死ぬきっかけとなった出来事を広めるための宣伝文句だったのではないでしょうか。
 だとすると、お菊は怨霊の中でもかなり狡猾な部類であり、優秀なコピーライターだったといえるのかもしれません。 



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# by tsukasa-kawa | 2017-08-22 16:42 | 日常雑記

8月21日のお話

「これは正直に言うと自分の好みから少し外れるんだけど、○○について書かれているのってこれしかないから……」
 小説に限らず、漫画やアニメ、音楽などでも何らかの創作物に触れて、そんな思いを抱いたことはありますか? 僕は割とあります。
 で、耳なし芳一ですよ。有名な話なのであらすじをわざわざ語る必要もないとは思うのですが、一応説明しますならば、盲目の琵琶法師で、平家物語の弾き語りが得意な芳一のもとに、ひとりの武士(女性という説もある)が現れる。彼に強く頼まれて、芳一は自分の弾き語りを聴きたいという者たちのもとへ足を運び、平家物語、とくに壇ノ浦の合戦について演奏する。すっかり気に入られた芳一は毎晩そこへ向かうのですが、相手の正体が平家武士の怨霊だと見抜いた和尚が、芳一が連れ去られないよう身体中に経文を書かせるも、耳の部分だけ忘れられてしまい……というお話ですね。
 しかし、怨霊たちはどうして平家物語を聴きたかったのだろうか。平家物語って、清盛を悪し様に罵るところからはじまるわけですよ。秦の趙高、漢の王莽などと同列に扱われるわけで。当然その先も似たような感じでして、壇ノ浦でもばったばった倒されていくわけで。そりゃ怨霊もすすり泣くわい。倒されるのは史実だけど。
「でも、それしかないから」というのが、理由のひとつとしてあったんじゃないかと思うわけですよ。源平盛衰記? あれもっと源氏贔屓だし。愚管抄なんかはいってしまえば思想書だし。
 そんな平家ですが、現代では平清盛も再評価され、大河ドラマでも二回主役を張り、源平合戦についてもさまざまな創作物が生み出されているわけです。
 怨霊たちも「平家物語は古典だから大事にするとして、それにばかりこだわることもないんじゃない?」と思ってもおかしくないでしょう。平家の盛衰について書かれているのが、もはや平家物語だけではなくなったのですから(まあ創作物界隈における源平のキャラクターは義経が圧倒的なんだけどね。あと与一?)。
 現代の平家武士の怨霊は、琵琶法師ではなく、新たな平家の物語を生みだそうとしているクリエイターのもとに行くのかもしれません。「違うよそこ!わかっちゃいない!」とか言いだしたりする可能性もあるけど。



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# by tsukasa-kawa | 2017-08-21 13:43 | 日常雑記

8月20日のお話

 ついに古典的怪談に手を出してしまいましたよ。まあお盆の時期も過ぎ去ったし、灯籠流しの記事もちらっと見たしで、タイミング的にはちょうどいいかなとも思いまして。
 で、牡丹灯籠です。本来は長編で、幽霊はどっちかというと添え物じゃないのという感じのドロドロした人間ドラマが展開するのですが、牡丹灯籠の名で広く知られているのは、その本編から一部を切り取って短編化したものではないかと思われます。古典だけあってバリエーションがえらく広いのですが、
・お盆の夜、浪人の新三郎のもとに旗本の娘であるというお露が会いに来て、二人は恋仲になる。
・牡丹灯籠というのは、お露が持っている灯籠から。
・新三郎は日ごとにやつれていき、それを心配した陰陽師が話を聞いて、お露が怨霊であると看破する。
・陰陽師の友人の和尚が用意してくれた仏像とお札で、お露が近づけないようにする。
・お露、新三郎の下男の伴蔵に接触して交渉。伴蔵の妻のお峰が「金百両くれたらやるよ」と答える。
・お露、金百両を用意する。
・伴蔵とお峰、お札をはがし、仏像を偽物とすり替える。
・翌朝、新三郎が死んでいるのが発見される。
 基本的にはこんな流れでしょうか。お露の用意した金はとあるところから盗んだものだったり、毎晩お露に呼びかけられた新三郎が、騙されて、あるいはお露への想いに負けて自分から彼女に会って命を落とすというパターンもあるようですが、どのパターンだろうが新三郎は死にます。どの選択肢を選んでも死ぬゲームのようです。ホラー映画でいうならバッドエンドですよ。お露視点で見ればハッピーエンドですが。
 それにしても、実体は骸骨なのに新三郎に対しては生きた頃の姿を見せたり、お札を使われたら下男に接触して打開策を図ったりと、この怨霊、かなりアグレッシブです。ここまでやってくると、まあ仕方ないんじゃないのという気すらしてきます。もし下男夫婦が言うこと聞かなくても、絶対に別の手打ってくるよこいつ。金まで用意できるんだもの。
 この執着心、さらに憑き殺そう=自分の側に無理に合わせるということを考えると、お露は元祖ヤンデレというべきかもしれません。
 幽霊が幽霊として存在しながら、当たり前のように主人公の側にのほほんと居候できる漫画や児童書、ライトノベルはありがたいよねえ……。



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# by tsukasa-kawa | 2017-08-20 12:34 | 日常雑記

8月19日のお話

 拍手レス
>怪談というか都市伝説のお話は定番のネタを紹介されているのだとは思いますが、聴猫芝居さんの『あなたの街の都市伝鬼!』と被っていて懐かしくなりました
 都市伝鬼とは懐かしい。あの方、あれがデビュー作なんですよなあ。
 怪談ネタは、仰る通り定番のネタをなるべく選ぶようにしていますね。まずわかってもらえないと、という部分があるので。
 あと、現象よりはなるべくキャラクターで。とはいえ、定番だけだとさすがにネタが切れてくるので、そろそろマニアックな方へ手を伸ばすかもしれません。


 さて、ここのとこ原稿で夜更かしが続いて起きる時間が遅くなっております。昼夜が逆転する前に何とかせねば。
 で、ドッペルゲンガー。身の回りのひとたちが、自分のあずかり知らぬ場所で自分そっくりの人間と出会っていき、最後には本人が自分そっくりのその人物と遭遇し、ほどなく突然死を遂げてしまうというものです。ただそっくりというだけでなく、知人、友人らと親しく話をしているので、本人の記憶、知識を備えていることは間違いないでしょう。
 最近は、本人の知らないところで本人よりも華々しい活躍をしてプレッシャーをかけ続け、ついには本人が「本物の自分の方がいらない存在なのではないか」と絶望して死を選ぶというバージョンもあるらしく(能力的な面、自分以上の活躍、というあたりが非常に現代風で、流行るのもわかりますね)、実に厄介な存在ではあります。
 ただ、元の話でも、ドッペルゲンガーが直接本人に手を下す、というのはなさそうなんですよね。突然死、という部分がちょっとアレですが。
 基本的には、何らかの形で心理的に追い詰めていくのがドッペルゲンガーのやり方のようです。逆手に取るなら、とにかく底抜けに明るくて前向きで楽観的な人間なら、ドッペルゲンガーはあまり効果がないと踏んで近づかないということでしょうか。しかし、良くも悪くも情報拡散をさせやすく、誰かのふりをしやすいこの時代は、ドッペルゲンガーにとっては楽しくてたまらないかもしれません。



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# by tsukasa-kawa | 2017-08-19 19:10 | 日常雑記

8月18日のお話・他

 ここのところ不調で本屋に行けていなかったのですが、3日前の15日はノベルゼロの発売日だったのでした。
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細音啓   ワールドエネミー2

ハンターと怪異と呼ばれる怪物たちの戦いを描いた細音さんの作品も堅調に2巻目。今回の敵は人狼。興味を持たれたら是非。

 んでは、毎度の挨拶流れの駄弁りを。赤い部屋ですね。とあるアパートに引っ越してみると、壁に穴が開いてある。覗いてみると、それなりの厚さの壁な割に、穴は隣の部屋まで通じていて、穴の向こうは真っ赤になっている……という話です。
 いろいろと言いたいことはあるのですが、まず大家は新たな入居者が部屋に入ってくる前に壁の穴ふさいどけやと。これは赤い目の隣人もそう思ったのではないでしょうか。前のひとが引っ越していった、しかし壁の穴がふさがる様子はない、新しいひとが引っ越してきた、しかし壁の穴はやはりふさがる様子はない、それどころか新入りはしょっちゅうこちらを覗きこんでくる……。自分の方でまったく何の対処もしない赤い目のひとも駄目駄目ですが、新入りもあかんでしょうこれは。もうどちらが怪談かわかったものではありません。
 この赤い目のひと(多くの話では女性とされている)が、新たな入居者が入ってくる直前に急いで穴を開けた、という可能性もありますが、いつまでも穴をふさごうとせず、隣なのに挨拶にも来ない(今は行かないものなのだろうか)入居者に対して不審を抱いたとしても不思議ではありません。と考えると、現代のディスコミュニケーションが生んだ怪談といえるのかもしれません。まあ、引っ越した日に挨拶に行った隣人の目が瞳孔まで真っ赤だったら、何かの病気ですか、って質問からはじまって怪談じゃない別の物語が始まりそうですが。



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# by tsukasa-kawa | 2017-08-18 22:38 | 新刊紹介