一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、11月25日発売です。よろしくお願いします。

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2017年 09月 08日 ( 1 )

9月8日のお話

 今日は暑い日でした。雨でじとっと湿っているよりはからっと晴れている方が好きなんですが、加減はすべてお天道様次第とあって、ほどよい暑さというものはなかなかないものです。
 さて、鶴の恩返しです。困っている動物を助けたら美少女に化けて押しかけ女房しにきた、という筋書きの原典ともいえる作品ではないでしょうか。地域によっては鶴女房という、まさに押しかけ女房な話もありますし。まあ、話の流れはこうです。

 お爺さんが町に出かけた帰りに、罠にかかってもがいている鶴を見つけて、助ける。
 それから数日が過ぎた雪の降る日、若い娘がお爺さん夫婦の家を訪れ、雪がやむまで泊めてほしいと頼み、滞在する。
 娘は老夫婦の世話を甲斐甲斐しく行い、このままこの家に置いてほしいと頼み、娘同然に扱われて暮らす。
 娘はお婆さんに頼んで機織り機を買ってもらい「作業中は中を覗かないでください」と言って、綺麗な反物をつくりあげる。
 反物は町で高値で売れ、老夫婦は裕福な暮らしができるようになる。その後も娘はたびたび反物をつくりあげる。
 お爺さんとお婆さんは娘がどうやって綺麗な反物を織っているか気になり、何度目かの作業中に、つい覗いてしまう。
 部屋の中では、鶴が自分の羽根を糸に混ぜながら綺麗な反物を織っていた。
「正体を見られてはここにいられません。さようなら」と、鶴は飛び去る。

 鶴の骨格で機織り機を使いこなしている点には目をつぶろう。些細なことだ。
「中を覗かないでください」
 先日お話しした「雪女」もそうでしたが、昔話にはこうした誓約を課してくるものがあります。まあ古事記に出てくる伊耶那岐、伊耶那美からしてそういうことやってますからね。海外にもよくありますし。
 つまり、人間は(神々すらも)好奇心にはたいがい負けてしまうということなのです。
 であれば、鶴が老夫婦との幸せな家庭を続けるには「いかにして好奇心を失わせ、中を覗く気にさせないか」が重要になってきます。
 ここで障子に鉄板を張るとか、鍵をつけるとかしては、好奇心を煽るだけ。
 羽根を織りこまないところだけ、人間の姿で見せてやれば騙せるのではと考えましたが、一度部屋に入ったら完成まで居座る可能性が高い。鶴の立場は居候であり、お爺さんへの恩からも、急性ヒステリーを起こして部屋から叩きだすのは難しいでしょう。
 であれば、気難しいアーティストを気取って部屋から遠ざけるというのは使えそうです。「完成まで引きこもるから。ご飯は廊下に置いといて」というやつです。
 機を織っている間、とにかく音痴な歌を歌って、物理的にお爺さんたちを遠ざける手もありでしょう。家庭は壊れるかもね。
 とはいえ、世の中アクションにリアクションはつきもので、何らかの行動を起こせば、それに対してお爺さんお婆さんも行動を起こすものなのです。また、何も起こさないとしても年月は過ぎていくわけで、いつか鶴が老夫婦の死を看取るか、あるいは疲れ切った鶴を老夫婦が看取るかという事態が起きるでしょう。
 正体を隠さなくてよくなったとき、鶴は真実を話すでしょうか。墓の下まで秘密を持っていくのでしょうか。
 そうしたところから、新たな昔話が生まれるかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-08 21:34 | 日常雑記