一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、11月25日発売です。よろしくお願いします。

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2017年 09月 09日 ( 1 )

9月9日のお話

 月には現代文明をはるかにしのぐ超文明があったんじゃー!
 そんなMMR(マガジン・ミステリー・ルポルタージュ)に出てきそうな妄言を吐いたところでかぐや姫です。MMRみたいな漫画っていまでもどこかで連載しているのかな。
 話を戻しましょう。正式名称は竹取物語。日本最古の物語といわれています。ちょっとまたあらすじにつきあってくださいな。

 昔々あるところに、竹を取っては様々な用途に使って暮らしていたお爺さんとお婆さんがいた。
 ある日、お爺さんが竹を取りに出かけると、金色に輝く竹があった。切ってみると、その中には女の子がいた。
 子供のいないお爺さんは女の子を抱いて帰り、自分たちの子として慈しんで育てた。女の子はすくすく大きくなり、美しく育った。また、お爺さんはその後、竹藪で金の詰まった竹を見つけるようになり、大金持ちになった。
 女の子の美しさは評判となって、貴賤を問わず多くの男たちが彼女の顔を見ようと訪れ、求婚する者も現れた。
 多くの者が諦めていく中で、五人の公達(ようするに上流貴族と思われたし)が残った。
 かぐや姫は、この五人に条件を出し、彼らはことごとく失敗した。死人も出た。
 やがてかぐや姫の噂は帝の耳にも入り、帝は彼女に会いたがった。かぐや姫は最初のうち会おうともしなかったが、いろいろあって、どうにか和歌のやりとりぐらいはできるようになるまで進展した。そのころから、かぐや姫は物憂げに月を見るようになった。
 かぐや姫は自分が月の者であることを明かし、遠からぬうちに迎えが来ると言った。お爺さんは驚いて帝に相談し、帝は多数の兵で月の使者を迎え撃とうとしたが何もできず、かぐや姫は帝に贈り物をして月へと帰っていった。 

 地上人の視点で見ると見事なバッドエンドです。
 お爺さんとお婆さんや帝は言わずもがなですが、五人の公達ね。特別な存在から、おまえちょっと遠くへ行ってあれ取ってこい的な試練を課せられる話は神話なども含め、古今東西で多数あります。日本だと神話になりますが、大国主命が素戔嗚尊の課した試練をくぐり抜けて須勢理毘売命と結ばれる話があり、外国産だと神託によって十の試練を課せられたヘラクレスが有名でしょうか。この公達たちも状況は似たようなものです。
 かぐや姫は、仏の御石の鉢だの蓬莱の玉の枝だのを彼らに要求しました。求婚を断るために無理難題をふっかけたと見ることもできますが、一度騙されかけているところからもわかるように、彼女は現物を知りません。試練を達成するチャンスは、たしかにあったのです。
「かぐや姫」を特別な存在が試練を課す物語として見た場合、試練を達成する=かぐや姫を納得させる=英雄になれる者を求めていたと考えることもできます。
 ですが、彼らは英雄になれなかったのです。知恵においても、力においても、運においても。

 かぐや姫のキャラクターについて、ちょっと考えてみましょう。なんでこの子は竹を光らせてまでその中にいたのか。かぐや姫を迎えに来た月の使者は、お爺さんに向かってこんなようなことを言います。
「お爺さんが善いことをしたので、助けるために片時の間、姫を遣わして、黄金を儲けさせるようにした。姫の罪も消えたので、迎えに来た」
 作中では説明されませんが、かぐや姫には何らかの罪があり、またこれも作中では説明されませんが、お爺さんは何か善いことをしたようです。地上にいる一介の竹取り暮らしのお爺さんの行動を、なぜ月の住人がウォッチャーしていたのかは不明ですが、そういうこともあるのでしょう。
 そして、月の住人はかぐや姫を竹の中に放りこんでお爺さんに拾わせ、その後も竹を通して黄金を与えていたようです。かぐや姫を選んだ理由は、前述したように罪があるから。月の使者は、地上を穢れたところだとも言っているので、かぐや姫にとって地上での暮らし=罪の償いであったようです。

 ただ、これは解釈の仕方によりますが、かぐや姫の犯した罪というのは、情状酌量の余地があるものだったのでしょう。だからこそ、善行を為した、すなわち善人であろう老人のもとに、黄金といっしょに預けたのだと思われます。地上の住人をウォッチャーしていたのも、預けるのによさげな家をさがしていたのかもしれません。いちいち竹に詰めるんじゃなくてじかに家に送れやと思わないでもないですが、月の担当者が竹に思い入れがあったのでしょう、たぶん。
 罪の償いとして地上で暮らしながら、かぐや姫は何を思っていたのか。壁に正の字を刻みながら「あと何年かすれば迎えが来るはずや」と思っていたのでしょうか。自分が月の住人であることをお爺さんとお婆さんに明かしたとき、彼女は「別れが辛い」と語るのですが、長い年月を地上で過ごすうちに情が移ったのでしょうか。

 月の住人であるかぐや姫は、月の国の力を知っていました。竹まわりの諸々もそうですが、帝が用意した一千の兵を、彼らは不思議な力で無力化できるのです。他の昔話と比較しても、神や仏に相当する力を持っています。彼らが迎えに来ればどうにもならないことを、かぐや姫は悟っていたでしょう。
 月の国に対抗できる存在がいるとすれば、それはまさに神や仏に相当する英雄に違いありません。
 そう考えて、かぐや姫は英雄を求めたのではないでしょうか。
 しかし、英雄になれた者はいませんでした。
 頂点に立つ存在である帝さえ、最後は何もできませんでした。
 かぐや姫は、英雄がついに現れなかったという物語なのかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-09 18:25 | 日常雑記