一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです

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2017年 09月 17日 ( 1 )

9月17日のお話

 アーマーゾーン!
 強くてハダカで速い奴! ええ、金太郎のことです。日本でも屈指の有名な昔話とあってバージョン違いも実に豊富なんですが、ともかくいってみましょうか。
 一般的な金太郎のイメージは、菱形の腹掛けを身につけ、まさかりを担ぎ、熊を乗りまわして野山を駆けまわっているというものではないでしょうか。熊と相撲をとって勝利するあたり、ゴールデンカムイの牛山さんと互角以上に戦える傑物であることはたしかです。

 そんな金太郎の親は何者なのか。多くは「昔々、足柄山に金太郎と呼ばれる男の子がいました」と、両親の存在をガン無視するところからはじまるのですが、親について書かれているものもいくつかあり、足柄山に住む彫り物師の娘と、京の宮中の役人との間に生まれた子であるとか、その彫り物師の娘が赤い龍に授けられた子であるとか、雷神と山姥の間に生まれた子だとか、そもそも親については「心優しい母」ていどにしか語られず詳細は不明といった話が伝わっています。ただ、動物と言葉をかわし、熊に勝てる剛力の持ち主であるところから考えても、特別な存在が関わっているのは間違いないでしょう。

 金太郎の友達は山の獣ばかりで、金太郎は彼らと日々を過ごしながら、大木を倒して橋代わりにしたり、熊と相撲をとって勝つなど、随所でその怪力ぶりを発揮します。そして、足柄山を訪れた源頼光に声をかけられ、京に行って武士となるのです。

 しかし、京に行って以後の金太郎の活躍は、有名な酒呑童子との戦いしか語られません。ものによっては「武士になった」で終わりとするものもあります。
 酒呑童子との戦いも金太郎が主役というわけではなく、頼光が主で、彼に仕える四天王のひとりという役どころです。同輩である渡辺綱には、鬼の腕を切り落としたという逸話があります。金太郎にはそういった話がありません。
 頼光たちと酒呑童子の戦いは、山伏に扮した頼光たちが不思議な酒の力でもって酒呑童子を弱らせて打ち倒すというものです。金太郎得意の剛力が発揮されたという話はやはりありません。
 なぜ、そうなってしまったのでしょうか。
 考えられることはいくつかあります。
 金太郎の剛力が埋没するようなものであったということ。ぶっちゃけるなら井の中の蛙、もう少し今風にいうなら少年ジャンプの「世界の広さを知ったか?」的展開。金太郎は、たしかに足柄山では最強でした。しかし、京という広い世界へ行ってみると、上位には必ず入れるが、頂点ではなかった。彼がついに四天王のひとりとして終わってしまったことが、それを証明しているように思えます。もちろん、それでも立派で偉大なことではあるのですが。
 または、彼の活躍が伝わりにくいものだったこと。彼の武器は刀ではなくまさかりであり、戦い方についても、熊相手に相撲をするぐらいですから、武士たちからも理解されがたいものだったのかもしれません。
 京での、武士としての生活が肌に合わず、そのために剛力も発揮できなければ活躍もできなかった可能性はありますが、金太郎は武士として生き続けており、故郷に帰ったというものはありません。それとも、活躍できずに故郷に帰ってしまったからこそ、先を語られなかったのでしょうか。
 あるいは、金太郎は少しずつ京での生活に武士として溶けこむ中で、特異性を失っていったのかもしれません。たとえば一寸法師は、最終的にただのひととなることで特異性を失いました。金太郎もただの武士となったことで、四天王のひとりであることを除けば、その先を語られる存在ではなくなったのかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-17 23:59 | 日常雑記