一〇八(仮)

asakust.exblog.jp

ライトノベル作家川口士のブログです

ブログトップ | ログイン

2017年 10月 04日 ( 1 )

10月4日のお話

 地上から雲までの高さは、いったいどのぐらいでしょうか。
 上を見れば実に13キロメートルもの高さに浮かぶものもあるようですが、下を見ると地上から200メートルぐらいのものもあるようです。
 また、現在の定義によれば、雲とは大気中に固まって浮かぶ水滴、もしくは氷の粒であり、霧もこの定義に該当するのだとか。一応、地表から離れているものを雲、そうでないものを霧として区別しているようですが、たとえば山に雲がかかっているとき、山の外から見ている者にとって、それは雲ですが、山の中で雲に包まれているひとにとって、それは霧であり、両者の区別はかなり感覚的なもののようです。
 なるべく低い方で想定してみるとして、東京都庁の展望台が地上202メートル、大阪府庁の展望台が地上252メートルなので、だいたいこのあたりに行ってみれば雲の高さがつかめるのではないでしょうか。この二者の間には50メートルの違いがありますが、雲の前ではささいなものです。
 それでは起源が北欧神話にまでさかのぼり、世界各地に類似する物語があるというイギリスの昔話、マメクライマージャックを主人公とした「ジャックと豆の木」いってみましょうか。

 母と二人暮らしの少年ジャックは、母に言われて市場へ牛を売りに行く。しかし、途中で男から豆と牛との交換を持ちかけられ、承諾してしまう。
 母はジャックを叱り、豆を家の外へ捨ててしまう。翌朝、捨てられた豆はとてつもなく大きな木に成長しており、ジャックは豆の木をのぼっていく。
 豆の木は雲に届いており、雲の上にのぼったジャックはそこに城があるのを発見する。城に入ってみるとひとりの女性が現れ、ここは人食い巨人の城だから早く逃げるようにと言う。自分は巨人の妻だとも。
 そのとき、巨人が帰ってくるが、巨人の妻はジャックを隠してくれる。ジャックは隠れながら巨人の様子をうかがい、巨人の宝物である金の卵を産む雌鳥を盗んで逃げる。
 数日後、ジャックは再び豆の木をのぼり、今度は巨人の宝物の金貨の出る袋を盗む。
 数日後、ジャックは三度豆の木をのぼり、今度は喋るハープを盗む。しかし、巨人に見つかってしまい、追いかけられる。
 どうにか地上に降りたジャックは、豆の木を斧で切る。巨人は落下して死亡する。

 このジャックの行動を、何の罪もない巨人に対する侵略行為だの、当時(ジェイコブ版の「ジャックと豆の木」は18世紀末)の侵略上等略奪万歳なアングロサクソンの傲慢ぶりを示しているだのという解釈も巷にはあるようですが、最低でも200メートルの木を命綱もなしに登って、帰りは宝物を担いで帰るって、そんじょそこらの少年にはできないことだと思うのですね。これがドラゴンのねぐらに潜って財宝かっぱらってくる冒険ファンタジーだったら喝采の嵐ですよ。

 それにしても何度も豆の木にのぼるあたり、ジャックの頭のネジが外れているのは間違いないでしょう。考えてみればこの子は牛と豆を交換するレベルの馬鹿です。200メートルからそれ以上あるかもしれない豆の木を上り下りしたり、巨人がしがみついても平気なほどの豆の木を斧で叩き切ったりしたのを見ると、たぶんステータスの割り振りで知力を減らす代わりに筋力を上げたのでしょう。豆が本当に魔法の豆だったからよかったものの、ただの豆だったら母子そろって飢えた日々を送り(どのバージョンでも貧乏なのは共通している)、口減らしに捨てられていたかもしれません。

 もっとも、ジャックの活躍は本人の力量だけによるものではありません。巨人の妻という協力者がいなければ、おそらく一度目の訪問でジャックは食われてしまい、巨人は豆の木を発見し、きさんら駆逐しちゃるけんのう!とばかりに進撃の巨人がはじまっていた可能性はおおいにあります。島国ですしね、イギリス。
 この巨人の妻、どのバージョンでも巨人とは書かれていないのでどうも人間っぽいのですが、なんで巨人の妻になっているのか、どうしてジャックを隠してくれたのかなど、不明なところの多い人物です。さらわれて妻になった、あたりの解釈が無難なのでしょうか。ちなみにほとんどのバージョンでは、ジャックは二度目、三度目の城への潜入では、彼女に会おうともしていません。これを彼女への気遣いとみるか、それとも警戒心によるものとみるかは難しいところです。

 巨人に敗因があるとすれば、妻の信頼を得ることができていなかった、という一点に尽きるでしょう。この妻が心優しい人物であり、情にほだされて一回目はジャックを逃したとしても、です。ジャックが二回目の侵入を果たす前に話をしていれば、巨人は豆の木の存在ぐらいは知ることができたでしょう。
 堅固な要塞や城のいくつかは、内通者によって陥落しました。身内を大事にしようというのが、案外この作品のテーマなのかもしれません。ジャックはほとんどのバージョンで母と幸せに暮らしていますしね。


web拍手を送る
by tsukasa-kawa | 2017-10-04 06:11 | 日常雑記