一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです

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2017年 10月 06日 ( 1 )

10月6日のお話

「お兄ちゃん、あそこに真っ黒なおうちがある!」
「あれは……あれはお菓子の家だ! お菓子の家に森中の虫とか虫とか虫とかがびっしりたかってるんだ! あっ、熊もいる!」
(真っ黒な家の中から老婆の悲鳴が聞こえてくる)
「逃げるぞ、グレーテル!」

 小さいころ、樹液の出る木に傷をつけたり、木に蜂蜜や砂糖水を塗ったりしてカブトムシなどをおびきよせ、捕まえた経験はありますか? どうも蜂蜜や砂糖水よりもバナナをてきとうに発酵させて木に縛りつけておいた方がいいらしいですが、ようするに虫は甘いものが好きなんですね。お菓子の家なんてものが森の中にあったら、ヘンゼルたち以前に虫が放っておかないでしょう。兄妹がちぎっては食べ、ちぎっては食べていたことからも、害はなさそうですし。
 さて、挨拶代わりの小話を終えたところで、ドイツはヘッセン州に伝わる民話をグリム兄弟が拾いあげた「ヘンゼルとグレーテル」です。「お菓子の家」というタイトルで呼ばれることもありますね。あらすじをざざっと書いてみましょうか。

 ある貧しい一家が、口減らしのために二人の子供=ヘンゼルとグレーテルを森の中へ捨てに行く。しかし、ヘンゼルは目印代わりに白い小石を地面に落としていたので、家に帰ってくる。
 数日後、両親は森の奥の方へ二人の子供を捨てに行く。小石を拾う余裕がなかったヘンゼルは、仕方なくパンをちぎって地面に落としていくが、すべて鳥に食われてしまう。
 森の中をさまよった二人は、お菓子の家を見つけてさっそく食べはじめる。そこへ老婆が現れ、ごちそうをあげるからと二人を中に招き入れる。
 老婆の正体は人食い魔女だった。ヘンゼルは牢に入れられ、グレーテルはヘンゼルを料理するための手伝いをさせられる。
 魔女はかまどの様子を見るようにグレーテルに言い、グレーテルは隙をついて魔女をかまどに押しこめて焼き殺す。
 ヘンゼルは助けられ、二人は魔女の財宝を手に入れて家に帰りつく。二人を積極的に捨てようとしていた母は病気で死んでおり、父親は謝った。めでたしめでたし。

 この兄妹の年齢、いくつなんだろうね。だいたいの絵本だと十二、三歳ぐらいに見えるんだけど、人間が知恵と機転で人食い系の怪物をとっちめる話の中では最年少なイメージがある。バージョンによっては兄妹の母が継母だったり、父親は最初からおらず、母親も最後に死んで兄妹が家なき子になったりといろいろありますが、兄妹が森の中に捨てられるのは共通しています。
 最初、兄妹が家に帰ってきたのは他に道がなかったからでしょう。しかし、二度目は魔女の財宝があります。知恵に関してはすでに兄が上で(ヘンゼルが落としていった小石に父は気づけなかった)、度胸に関しても妹が上といっていいでしょう(父は妻に逆らえなかったが、妹は魔女を焼き殺した)。
 それでも帰ってきたのは、父親への愛情でしょうか。村にいた方が暮らしやすいからか。二人はおおいに成長しましたが、おそらく年齢上はまだ子供なのです。
 父親は、今度こそ父親らしく振る舞うことを要求されるでしょう。兄妹からだけでなく、自分自身からも。いつか誰もが納得するときまで。
 父親が最後まで生き残り、兄妹が家に帰ったのは、大人のやったことはどこまでもついてまわるのだと、伝えるためなのかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-10-06 11:08 | 日常雑記