一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです

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2017年 10月 11日 ( 1 )

10月11日のお話

 わしはまわりの連中とは違う。こんなんじゃない本当の自分が、よその土地でならきっと見つかる。
 わしは、こんな年季の入った肥だめみたいな町で一生を終える男じゃないんじゃー!
 そう叫んでまたひとり、一発逆転を狙って町へ行った男がおってのう……。1年で連絡がつかなくなってしもうた。

 そんな昭和昔話をしたところで、アンデルセンで有名な「みにくいアヒルの子」です。
 アヒルの子供たちの中に、なぜか一羽だけみにくい子が混じっていて、他の子からはいじめられ、母親からも見捨てられて家族を飛びだし、他の群れにも入れてもらえず、旅の末に自分が白鳥であることに気づく……というお話ですね。貴種流離譚の鳥版といったところでしょうか。まあ白鳥って成鳥になるまでだいたい1年ぐらいらしいので(飛べるようになるのは生まれてから3ヵ月ぐらい)、約1年の旅路だったわけですが。

 気になるのは、本当にいじめが原因で家族のもとを飛びだしたのかということです。
 もちろん個体差はあるでしょうが、白鳥ってどちらかというと気性が荒いんですよね。仲間だと思えば人間にも懐くのですが、そうでなければけっこう攻撃的という。
 この子がはじめて家族に違和感を覚えたのは、目の前の親鳥を親と認識できたかどうかでしょう。アヒルは刷り込みで親を認識するのですが、この子にはそれがないわけで。外見の問題ではなく、のっけから浮いていたのではないでしょうか。
 いじめがなかったとは言いません。この子が浮いていることを自覚したように、まわりの子もおかしいと思ったでしょうから。ですが、この子は自分から暴れて、その末に飛びだしたのではないでしょうか。

 家族のもとを飛びだしたあと、この子は自分の居場所を求めて他の群れをあたります。次々と追いだされるわけですが「おまえ、どう見てもアヒルじゃないよ」とは言われないのですね。正確には、言われた描写がない。
 白鳥とまではわからなくとも、アヒルでないことには気づくでしょう。あるていど成長したら羽の形とか違ってくるし。白鳥は飛べますからね、アヒルと違って。
 その指摘があれば、この子の旅はルーツを探す旅となり、まさに貴種流離譚となったわけですが、そうはなっていません。
 あきらかな外見の違いを、他の群れは「みにくい」だけでかたづけて排斥したのでしょうか。
 指摘はしたが、この子が聞こうとしなかったのではないでしょうか。

 白鳥の群れに指摘され、水面に映る自分の身体を見て、この子は自分が白鳥であることを受け入れます。
「飛べるアヒル」だとは思わないわけです。
 この子はやはり、もっと以前から「自分はアヒルではない」と思っていたのではないか。だからこそ、白鳥の指摘をすんなり受け入れたのでは。
 それまでは、アヒルでないとすれば何なのかがわからず、アヒル以下の何かかもしれないという恐れを捨てきれなかったため、自分は「みにくいアヒル」だと思うようにしていたのではないか。
 みにくいアヒルの子というのは、他称ではなく、自称だったのかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-10-11 10:21 | 日常雑記