一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、それから片桐雛太さんの魔弾画集、絶賛発売中です。よろしくお願いします。

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9月8日のお話

 今日は暑い日でした。雨でじとっと湿っているよりはからっと晴れている方が好きなんですが、加減はすべてお天道様次第とあって、ほどよい暑さというものはなかなかないものです。
 さて、鶴の恩返しです。困っている動物を助けたら美少女に化けて押しかけ女房しにきた、という筋書きの原典ともいえる作品ではないでしょうか。地域によっては鶴女房という、まさに押しかけ女房な話もありますし。まあ、話の流れはこうです。

 お爺さんが町に出かけた帰りに、罠にかかってもがいている鶴を見つけて、助ける。
 それから数日が過ぎた雪の降る日、若い娘がお爺さん夫婦の家を訪れ、雪がやむまで泊めてほしいと頼み、滞在する。
 娘は老夫婦の世話を甲斐甲斐しく行い、このままこの家に置いてほしいと頼み、娘同然に扱われて暮らす。
 娘はお婆さんに頼んで機織り機を買ってもらい「作業中は中を覗かないでください」と言って、綺麗な反物をつくりあげる。
 反物は町で高値で売れ、老夫婦は裕福な暮らしができるようになる。その後も娘はたびたび反物をつくりあげる。
 お爺さんとお婆さんは娘がどうやって綺麗な反物を織っているか気になり、何度目かの作業中に、つい覗いてしまう。
 部屋の中では、鶴が自分の羽根を糸に混ぜながら綺麗な反物を織っていた。
「正体を見られてはここにいられません。さようなら」と、鶴は飛び去る。

 鶴の骨格で機織り機を使いこなしている点には目をつぶろう。些細なことだ。
「中を覗かないでください」
 先日お話しした「雪女」もそうでしたが、昔話にはこうした誓約を課してくるものがあります。まあ古事記に出てくる伊耶那岐、伊耶那美からしてそういうことやってますからね。海外にもよくありますし。
 つまり、人間は(神々すらも)好奇心にはたいがい負けてしまうということなのです。
 であれば、鶴が老夫婦との幸せな家庭を続けるには「いかにして好奇心を失わせ、中を覗く気にさせないか」が重要になってきます。
 ここで障子に鉄板を張るとか、鍵をつけるとかしては、好奇心を煽るだけ。
 羽根を織りこまないところだけ、人間の姿で見せてやれば騙せるのではと考えましたが、一度部屋に入ったら完成まで居座る可能性が高い。鶴の立場は居候であり、お爺さんへの恩からも、急性ヒステリーを起こして部屋から叩きだすのは難しいでしょう。
 であれば、気難しいアーティストを気取って部屋から遠ざけるというのは使えそうです。「完成まで引きこもるから。ご飯は廊下に置いといて」というやつです。
 機を織っている間、とにかく音痴な歌を歌って、物理的にお爺さんたちを遠ざける手もありでしょう。家庭は壊れるかもね。
 とはいえ、世の中アクションにリアクションはつきもので、何らかの行動を起こせば、それに対してお爺さんお婆さんも行動を起こすものなのです。また、何も起こさないとしても年月は過ぎていくわけで、いつか鶴が老夫婦の死を看取るか、あるいは疲れ切った鶴を老夫婦が看取るかという事態が起きるでしょう。
 正体を隠さなくてよくなったとき、鶴は真実を話すでしょうか。墓の下まで秘密を持っていくのでしょうか。
 そうしたところから、新たな昔話が生まれるかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-08 21:34 | 日常雑記

9月7日のお話

 うちの近所にはお地蔵様がいるんですけども、正直に申しあげて夜に見るのはめっちゃ怖いです。しかもお寺の中なので、明かりに照らされていまして、角度によっては光と闇のコントラストがね……。怖さを増幅するんですよ。
 そんな僕のご近所話をしたところで笠地蔵です。善いことをすれば報われる昔話の代表例ともいえる有名な作品ですね。最近ことあるごとにあらすじをうだうだ話していましたが、これについてはそこまでしなくていいだろうというほどにシンプルなお話です。

 ところで、このお地蔵さんたち。どれぐらいの力の持ち主なんでしょうか。お地蔵さんは地蔵菩薩なわけで、まあ仏力みたいなものがそうとうあるんだと思われます。
 このお話においては、自由に動きまわり、米や酒や野菜を自由に生みだすというキリストみたいな力を発揮します。
 言葉を発しないのは、さすがに喋ることができないのか、それともハードボイルドを気取っているのかはわかりません。とりあえずどのバージョンでもお爺さんたちはお地蔵様の背中を見ているので「善行は(お爺さんが笠をかぶせたように)見えないようにやっても、恩返しはわかるようにやれ」と訴えているのは間違いなさそうです。
 そう、背中を見ているのです。
 お地蔵さんたちは、歩いてお爺さんの家までやってきて、歩いて帰っていったのです。真夜中に。
 夜中に通りを歩いていて、暗がりの向こうからお地蔵さんが集団で歩いてきたら、まあ悲鳴をあげますね。二宮金次郎像じゃないけどオカルト案件でしょう。この界隈に怪しい呪術師とかがいたら、最悪の場合、よくないものに憑かれたとか言いがかりをつけられ、お地蔵さん打ち壊しの危機です。
 あるいはお地蔵さんたちはそこまで考えて、あえて自分たちの姿をお爺さんに見せることで、他の人間には上手く言っておけと伝えたのかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-07 21:53 | 日常雑記

9月6日のお話

 ネタが滑ったり派手に失敗したりして場を凍らせてしまったことのあるやつはおるかー。ここにおるぞー。
 具体的な話になると自虐風に語ってみてもしんどくなるので、さっさと本題に入りましょう。あ、今日の東京は湿っぽかったですね。夏以前に戻ったかのようでした。
 合いの手のつもりで天気について大雑把に語ったところで、こぶとり爺さんです。例によってバージョン違いがわんさかありますので、まずは基本的な認識の共有とまいりましょうか。

 あるところに、顔にこぶのある爺さんが二人いる。こぶがあっても陽気でほがらかな正直爺さんと、いつも誰かにやつあたりしている意地悪爺さんである。
 ある日、正直爺さんが山の中に入ると、鬼が宴会をしているところに遭遇する。楽しそうに見えたので、爺さんは飛び入り参加して踊り、鬼たちに大ウケ。「最高にクールだったぜ、ジジイ。また来いよ。それまでおまえのこぶは預かっておく」と、鬼たちにこぶをとられる。
 村に帰ってきた爺さんはそのことを話す。それを聞いた意地悪爺さんは山の中へ行き、宴会をしている鬼たちを見つける。
 爺さんは飛び入り参加するも、踊りが下手で鬼たちはおおいに白ける(本当は踊りが上手いが、緊張してガチガチになったという話もある)。「おまえ、もう来なくていいわ。こいつは返してやるよ」と、鬼たちにこぶを押しつけられる。

 バージョン違いは数あれど、最初に正直だの意地悪だの爺さんたちの人柄を紹介するところはほとんど共通しています。
 そして、それが話にまったく関係ないところも共通しています。「おまえ、性格悪いから認めないわ」とは、鬼たちは言いません。まあ神でも仏でもなく鬼なのですから善悪を云々するわけもないのですが。
 単純に技量または度胸が足りなかったというか、場を盛りあげる才能がなかったために、意地悪爺さんはこぶを押しつけられてしまったのです。何とも現実的ですね。意地悪爺さんがその状況を打開するには、鬼たちの反応を早い段階でつかみ、彼らが喜ぶようなアクションか、でなければこれなら得意というものに切り替えるべきだったのでしょう。正面から誠実に頼みこめば……いや、これは「こぶ取ってほしいんだ? じゃあ何か面白いことしてみて」と言われるパターンやろな……。
 バージョンによっては、この出来事によって意地悪爺さんは逆に奮起し、仕事に精を出して一財産築くというものもあるようですが、やはり何らかの形で救いはほしいものです。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-06 21:00 | 日常雑記

9月5日のお話

 雪女。昔話の中でも怪談に近い性質を持つ話ですね。
 雪という言葉から、クール、冷たい、儚い、といったイメージを持たれることが多いと思います。漫画やアニメ等に出てくる雪女に明るい性格の子が多いのは、そういったイメージがあることを見越してのギャップ狙いかもしれません。
 民話レベルでは昔から語り継がれていましたが、ひとつの話として確立されたのは小泉八雲の「雪女」ではないでしょうか。

 ある冬の日、二人のきこり(老人と若者)が小屋の中で吹雪をしのいでいた。
 夜、二人が寝ているところへ何ものかが忍びこんでくる。それは白ずくめの美女だった。
 美女は老人の方のきこりに冷たい息を吹きかけて凍死させる。だが、若者の方のきこりに対しては「おまえは若いから殺さない。だが、このことを誰かに喋ったら殺す」と告げて去る。
 その後、きこりの若者はひとりの美女と出会う。二人は恋に落ちて結婚して子供も生まれる。
 ある晩、子供を寝かしつけた妻に、きこりは「そういえば昔、おまえにそっくりな女に会ったことが……」と昔のことを話す。
 雪女は正体を見せて「その女は私。誰かに喋ったら殺すと言ったはず。だが、子供がいる以上、どうして殺せようか」と言って去る。

 バージョン違いでは、二人組のきこりが親子であったり、「喋ったら殺す」ではなくて「喋ってはならない」という誓約に近いものだったり(その場合、破られた時点で雪女は去る)などがありますが、話の流れとしてはこんなところです。
 お爺さんを凍死させた割に、男に対しては雪女の行動がずいぶん甘いというか、気まぐれのように見えます。ですが、
「超常的な存在(神、妖精、精霊、妖怪等々)との契約によって窮地を脱する」
「その契約を破ることによって、大切なものを失う」
 というのは昔話においては王道で、その意味では筋が通っているのです。
 男は雪女との契約によって凍死をまぬがれ、契約の破棄によって愛する妻を失う。
 が、引っかかりを覚えるとすれば、契約の提案は雪女から割と一方的になされ(お爺さんが死んでいるので、男も助けてくれと望んだに違いありませんが)、契約の破棄後の対価の変更(男が死ぬのではなく、妻が消滅する)も、やはり雪女から一方的になされている点でしょうか。
 視点を変えれば、男に惚れた雪女の努力の物語に見えなくもありません。一目惚れしたので契約を交わしてでも生きながらえさせ、姿を変えて出会いをやり直し、最後には男をかばって消え去る。少女漫画っぽーい。大事なのは掟やルールをどう運用するかなんやなって。お爺さん? 運が悪かったんだよ……(まあ雪女は吹雪の化身であり、バージョンによっては雪女は生命力を吸う、というものもあるので、年老いた方から寒さによって死んでいき、若者が生命力の強さで生き残るというのはわからんでもないんだけど)。
 これに類型を求めるとすれば、外国産ですが、王子に会うために努力を重ねまくった人魚姫でしょうか。雪女は妖怪じみた(妖怪だからね)押しの強さでぎりぎりいいところまでいったんだけどねえ。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-05 23:35 | 日常雑記

9月4日のお話

 数多ある日本昔話の中でも、桃太郎は一、二を争うメジャーな話でありながら、タイプとしては珍しい冒険物語だと思うのですよ。
 金太郎は頼光にスカウトされるまで山を出ず、一寸法師は京を目指して旅に出るとはいえ、すぐに到着します。浦島太郎にしても海底は竜宮城への通過点であって、旅するわけではない。
 旅に出て、仲間を得て、敵と戦って財宝を得る。やっていることはむしろ、神話で語られる英雄のそれに近いのですね。王道RPGといってもいいかもしれません。だからこそ桃太郎は魅力的な物語として語り継がれ、多くのひとが題材にしたのだろうと思います。

 そして、桃太郎に同行する旅の仲間。犬、猿、雉。いわば旅を支える名脇役です。
 猿蟹合戦における栗、蜂、臼、牛糞が、子蟹から事情を聞いて無償で協力を申し出たのに対し、彼らは黍団子を対価として求めます(獣から申し出る場合もあるし、黍団子をねだる獣に桃太郎が条件を出す場合もある)。「悪い鬼とやりあうんですか、手伝いますよ」とは決して言わないのです。桃太郎は勧善懲悪の物語とよくいわれますが、はたしてそうでしょうか。正義感を持っているのって、よくて桃太郎だけ。他は傭兵よろしく契約によって同行している。

 ここで気になるのは、黍団子って鬼と戦う対価としてはまっとうなものなのか。バージョンによっては桃太郎に「半分だけ」と値切られることもあります。
 古典をあたっていくと、団子ではなく餅だという説があり、ある種の餅には邪を払う力があるとされていることを考えると、ゲーム風にいえば世界樹の雫とかエリクサー的な、相応の価値があるものかもしれません。あるところに住んでいるようなお婆さんにそんなもんが作れるんかという疑問がありますが、桃太郎の入っていた桃は、そのお婆さんの前に流れてきたのです。ことのはじまりから相手を選んでいた可能性は考えられます。

 しかし、もうひとつ疑問が出てきます。これはほとんどの桃太郎に共通するのですが、獣たちは鬼退治のあとも桃太郎に同行して財宝を運ぶのを手伝っているのです。出会ったところにさしかかったら別れるとはならず、バージョンによってはそのまま桃太郎のそばに居着く話もあります。
 旅の中で戦友意識が育まれたのでしょうか。宝の分け前にあずかるために桃太郎の村まで同行したのでしょうか。
 あるいは、獣たちにとって、桃太郎は危なっかしい人間に見えたのかもしれません。陣羽織に旗指物に刀という桃太郎のイメージは明治頃、かなり後の時代になってつくられたものです。それ以前は、黍団子以外に決まった武装はありません。
 お爺さんとお婆さんの家にろくな武具があるとは思えず、棍棒と布の服みたいな装備である可能性は高い。だって村人だもん。生みの親は桃だし。
 そんな風体で鬼ヶ島に向かう若者を見て、こいつは俺が見ていてやらないと駄目かもしれん、と獣たちは思ったのではないでしょうか。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-04 21:20 | 日常雑記

9月3日のお話

 とがった能力を持つ個性的なメンバーをそろえて強敵に挑んでの勝利。古今東西かかわらず熱い展開です。そこにかたきうちという要素が加われば鉄板といっていい。
 そんな胸のすくお話が猿蟹合戦です。合戦が戦争をイメージさせるのでさるかにばなしにする? それならいっそ今風に「親をいじめられた蟹が仲間を集め知恵を絞って徹底的にやり返すお話」とでもすればいいんじゃないですかね。全国のいじめられっ子に勇気を与えるでしょう。脱線しました。話を戻しましょう。

 おおまかな話はご存じかと思いますが、おにぎりを持った蟹が、柿の種を持った猿とそれぞれのものを交換し、蟹は柿を育てます。
 ところが、柿の木に登れないがために、せっかく育てた柿を猿に食われ、さらに青柿をぶつけられて死亡。途方に暮れた子蟹に、通りかかった臼と蜂と栗と牛糞が力を貸して猿を倒すという筋書きですね。

 生物が蜂しかいねえ。
 他が無機物と食い物と排泄物ですよ。牛糞は、地域によっては昆布だったりするらしいですが(海が近くにある地域かどうかの差かな)、メンバー中の食い物が二つになっただけです。これを見ると、犬、猿、雉を連れていった桃太郎がしっかり配下を選別していたような錯覚を起こします。
 しかし、これはこれでありかもしれません、というのも、猿を警戒させないからです。
 猿の視点でこのお話を見ると、親蟹は非常にちょろい相手でした。種ひとつでおにぎりをせしめ、成長した柿も親蟹を無視して食べ放題。青柿で仕留めることもできました。子蟹は自分を恨んでいるようだが、子蟹だけならたいした相手ではない。
 子蟹に協力するのがそれこそ犬、猿、雉であったら、さすがに猿も警戒したでしょう。
 しかし、子蟹の味方は上に述べた通りです。警戒すべき相手はせいぜい蜂ぐらいだと思っても不思議ではない。そこがまさに油断大敵で、家に忍びこまれていることにも気づかず、囲炉裏からの栗、水瓶からの蜂、地面に牛糞、天井から臼という怒濤の連係攻撃で仕留められるわけです(ものによっては子蟹が猿の首をちょんぎる話もある)。
 このお話にもしも教訓があるならば「油断大敵」となるのでしょうか。たいていの合戦は、油断した側が負けるからねえ。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-03 16:18 | 日常雑記

9月2日のお話

 ひさしぶりに昼寝をしたら、思ったよりぐっすり眠ってしまいまして。定期的に休むことの必要性をあらためて実感しました。
 さて、かちかち山ですよ。どうも内容が残酷だというので、最近は話がマイルドになったものが出回っていると聞きまして。また、昔話の例に漏れず、バージョン違いが無数にあります。ここはつらつら書く前に、ちょっと整理しておきましょうか。

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
 お爺さんが豊作を祈りながら畑にまいた種や芋を、狸が不作を祈りながら食い荒らして駄目にしました。怒ったお爺さんは罠を仕掛けて狸を捕まえ、縛りあげます。
 お爺さんが畑仕事に向かうと、狸はお婆さんを騙して縄を解かせ、お婆さんを撲殺して料理し、帰ってきたお爺さんに「狸汁」と言って食わせた挙げ句「ばばあ汁食った」と囃したてて逃げます。
 お婆さんの骨を抱いて泣くお爺さんのもとに、兎が現れて事情を聞き、かたきを討ってやると約束します。
 兎は狸のねぐらのそばに行き、狸に見せつけるように栗をおいしそうに食べます。狸が栗をくれと頼むと、柴を集めて山の向こうまで運んでくれたらと言います。狸は引き受けます。
 二人はそれぞれ柴を背負って山を越えるのですが、兎は狸の背後で火打ち石をかちかちと鳴らします。
 狸「このカチカチって音は何なんだ?」
 兎「ここはカチカチって鳴く鳥がいるからかちかち山というんだ」
 狸の背負った柴が燃えて、狸は大火傷を負います。
 数日後、兎は狸のもとを訪れ、何食わぬ顔で火傷を心配し、薬だと偽って、火傷した箇所に唐辛子を混ぜた味噌を塗りたくります。
 さらに数日後、兎は狸を誘って海に釣りに行きます。兎は木の船で、狸は泥の船で沖まで出ますが、そこで泥の船が崩れ、狸はおぼれます。助けを求める狸に兎は櫓につかまるよう言い、狸が寄ってきたところで櫓で撲殺します。めでたしめでたし。

 悪を討った者は正義となるのか。それともまた別の悪なのか。
 あ、これは別に何となく言ってみたかっただけです。
 兎と狸の関係性だけで見るのならば、兎は狸に何もされていません。
 兎の動機は、義憤です。お爺さんから事情を聞いて、はじめて動きだします。お婆さんの亡骸をバックに「あの外道~!」と、マーダーライセンスを握りしめて突っ走ればわかりやすかったでしょうか。脱線するけど「そして僕は外道マンになる」は面白かったです。
 話を戻しますが、義憤が成り立つには二つの条件が必要です。
 ひとつは、討たれる側=狸が残酷であること。残酷であればあるほどよい。聞き手、読み手が共感するからです。残酷だからといって削ってしまっては、物語が成り立たなくなってしまう。筋が通っていればいい、ではないのです。
 もうひとつは、正義、法が無力であることです。狸を討った兎をどのように裁くかという模擬裁判がかつて行われたことがありましたが、かちかち山において、狸の非道に対して法がまったくの無力であったことを、少なくとも参加した大人は考慮すべきであり、子供たちにも説明すべきだったでしょう。ばばあ汁も省かずにね。そもそも、おとぎ話に法なんてあってないような(ry

 また、兎はかたきうちを、三段階にわたって行っています。同じかたきうちの昔話には猿蟹合戦がありますが、あちらが連係攻撃とはいえ一回ですませているのにくらべると、ぶっちゃけしつこいです。かちかち山の段階で狸の丸焼き一丁あがりでいいじゃん。ただ、お爺さん側の被害が「種や芋を食い荒らされ」「お婆さんを殺され」「ばばあ汁を食わされ」と考えると、一度ですませてたまるかという思いがあったのでしょう。
 とはいえ、兎自身は何もされていないことに加え、このかたきうちのくどさが、兎が狸にひどいことをした、という見方を生んだのだとも思われます。兎がお爺さんに知恵を授けて、一撃必殺で直接的な復讐をさせたのであれば、またいろいろと違っていたかもしれません。   

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by tsukasa-kawa | 2017-09-02 23:17 | 日常雑記

新刊紹介・他

 9月1日は防災の日らしいですが、昨今の情勢を考えるとこの機会に設備や道具の点検などをしておいた方がいいやもしれません。カップ麺はお湯が必要だから非常食にはなりにくいぞ? そのままかじっても喉渇くしね。
 時候の挨拶をライトにすませたところで、まずは本日が正式発売日なHJ文庫の新刊の紹介をば。
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 手島史詞  魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい? 3

 手島さんの魔王夫婦ものも順調に3冊目。コミカライズ企画進行中だそうですよ。 そういえば先日、この作品の略称について手島さんが魔奴愛と言い放ったので、それはやめておいた方が……と言いましたが、魔奴嫁とかに略して紹介してるひともいたりして、もう何でもいいんじゃないかと思いました。個人的には愛でればなどのひらがな多めが好きです。検索しにくくなるけどね!

 さて、脈絡なく話題を変えて、舌切り雀ですよ。昔話の中でもメジャーな話ではないでしょうか。
 昔々あるところに、心優しいお爺さんと欲張りなお婆さんという、揉めごと次第では離婚待ったなしな夫婦が住んでいまして、あるときお爺さんが怪我をした雀を連れて帰り~というところから物語がはじまります。お婆さんは雀が勝手に洗濯のり(炊いた米を潰して糊にしたものと思われる)を食べたことに腹を立て、舌を切り取るのですね。

 その後、お爺さんは雀をさがしに山へ入り、雀と再会し(説によっては、再会するまでに馬の血だの牛の小便だのを飲む羽目になる流れもある)、もてなしを受け、帰りに二つのつづらのどちらかを贈ると言われます。島耕作がアメリカで会ったホームレスに何となく親切にしたら、その正体は取引先のオーナーだったという話を思いだしますね。こうした話は時代に合わせつつ、世代を超えて語られるのでしょう。

 それにしても、優しくしてくれたお爺さんにも小さなつづらと大きなつづらを選ばせて試そうとするあたり、この雀、割とど畜生です。鳥類がど畜生なのは現代にかぎったわけでもないのですね。大きなつづらに妖怪が入っているとすれば(後々の展開を考えると、これが妥当)、お爺さんが「大きいのを持って帰ればお婆さんも喜ぶじゃろう。ちょっと頑張って大きいのを持っていくかのう」とか言いだしたらどうするつもりだったんだ。
 そうではなく、どちらにも金銀財宝反物類が入っているとすれば、いかにも小さい方を持っていかせようとしているふうに見えてけちくさい。
 ともあれ、お爺さんは小さなつづらを持って帰り、中には金銀財宝が入っていて、それを見たお婆さんは自分もと山中に入って雀と会い、大きなつづらを選び、中には妖怪が……となるのです。

 いかにもお婆さんが雀の舌を切ったことや、欲張ったことが悪いように描かれますが、前述した通り、雀もたいがいです。おまえ大金持ちで妖怪マスターのくせに、ただの雀のふりをして居候した挙げ句洗濯のりをつまみぐいしたのかよ。
 この話から導かれるのは、見た目で判断しては危険、ということでしょう。お婆さんも、遅くとも雀が人語を喋ったあたりで警戒すべきだったのです。相手の正体と能力をさぐり、見事に突き止めることができていたら、また別の物語が展開したかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-01 18:13 | 新刊紹介