既刊一覧

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# by tsukasa-kawa | 2027-12-31 00:00 | 既刊情報

4月8日の話

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 原作・漫画:的良みらんさん 原作:川口士 でお送りする
 ニコニコ静画さん内「水曜日はまったりダッシュエックスコミック」にて、0、1話、2話(前)、7~15話(前)を公開中です。
 最新の更新は第15話(前)。獣の目を暴走させぬよう、また退魔士としての能力を高めるため、実家である鏡守神社に帰ってきた飛白と珠々波、そして同行したセキ。しかし、出迎えた母はそっけない態度をとり、飛白に対しても、獣の目を封じた上で試練を解決するよう求めてくるのでした。その試練を果たすべく、鏡を割って封印を解く珠々波。
 現れたのは、おなじみな方にはおなじみの……。
 次回の更新は4月19日(日)。吸血鬼ソフィアもといジュディニエーヌ以下略に、飛白たちはどう立ち向かうのか。
 さて、この100巫女ですが、電子コミック、電子ノベルを特化して取り扱っている
 にて、(無修正版)独占配信させていただいております。現在0~12話まで。
 また、単行本1巻も好評発売中。まだ買ってないという方はぜひ。

 さて、おおむね一週間ぶりですね。春休みも過ぎ去り、暖かくもなり、世間は新年度、新生活を粛々と進めていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。いや、気温急に上がりすぎやと思ってるけど。
 この時期、花粉もまあまあ減って過ごしやすくなるんですが、過ごしやすくなりすぎるというか、つい夜更かししがちになるというところもあるんですよね。覚えることや仕事も多いし。というわけで僕は仕事に戻りますが、皆さんも毎日しっかり風呂に入る、毎晩しっかり寝る、は守りましょう。健康大事。


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# by tsukasa-kawa | 2026-04-08 23:00 | 日常雑記

4月1日の話+SS

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 原作・漫画:的良みらんさん 原作:川口士 でお送りする
 ニコニコ静画さん内「水曜日はまったりダッシュエックスコミック」にて、0、1話、2話(前)、7~14話を公開中です。
 最新の更新は第14話(後)。女将の鮎に取り憑いていた「華澄」。庵路も知っているその女性について知るために、庵路と夢を共有した飛白。彼女が見たのは、庵路と愛を育んでいった華澄の姿でした。ちなみに鮎の浄化は珠々波とセキががんばって解決。
 次回の更新は4月5日(日)。あと数日、お待ちくださいませ。
 さて、この100巫女ですが、電子コミック、電子ノベルを特化して取り扱っている
 にて、(無修正版)独占配信させていただいております。現在0~12話まで。
 また、単行本1巻も好評発売中。まだ買ってないという方はぜひ。


 さて、一週間と少しぶりですね。4月になりましたが、気がつけばエイプリルフールでのSS(SS……? いや、最初はそれぐらいだった)も8年目。もしもあの二人の置かれた立場が引っくり返ったら? 楽しんでいただけたら幸いです。



 ブリューヌ王国とジスタート王国が刃をまじえるのは、実に二十数年ぶりのことだった。
 争いの原因は、国境線となっている川が大雨で増水し、氾濫を起こしたことである。
 まず、被害を受けた住民たちが、「あいつらが川の管理をまともにしないから」とおたがいに非を押しつけあって、いさかいを起こした。
 次いで、陳情を受けた国も「そちらの治水対策に問題があった」と言いはって譲らず、双方の軍に出征を強いることになったのだった。

 戦場となるディナント平原に集まったブリューヌ軍の兵力は、実に二万五千以上。
 人間だけではない。竜がいた。人里に姿を見せることはまずないといわれている、トカゲに似た巨大な獣が。
 それも、四頭。
 体長五十チェート(約五メートル)を超え、見上げるような巨岩を思わせるずんぐりとした体躯と丸太のような尻尾を持ち、全身のほとんどが黄銅色の鱗に覆われている地竜。
 地竜より一回り小さく、細身ながら、蝙蝠のそれに似た形状の巨大な翼を持ち、空を飛ぶ力を持つ飛竜。 
 鱗の隙間から、己の身体を覆うように長い体毛を生やしており、灰や炭、鉱物を常食し、炎を吐く火竜。
 そして、他の竜よりも二回り以上大きく、ぶ厚い鱗と、二つの頭を持っている双頭竜。
 火竜と双頭竜には、鉄ともつかない黒い金属の首環がはめられ、その首環から伸びた太い鎖が巨躯に巻きついている。この二頭が身じろぎをするたびに、鎖はじゃらりと重々しい響きをたてるのだった。
 ブリューヌの兵や騎士で、竜に近づこうとする者は数えるほどしかいない。恐怖に顔をこわばらせて、遠巻きに眺める者ばかりだ。
 この四頭の竜は、ブリューヌを代表する大貴族のひとりテナルディエ公爵が、五千の兵とともに従えてきた。
「レグナス王子殿下の初陣を華々しい勝利で飾るために」と、公爵は言ったが、それだけではない。自身が四頭もの竜を従えていることを諸侯や騎士に見せつけて、精神的な従属を求めるつもりなのはあきらかだった。
 ティグルヴルムド=ヴォルンと、彼とともにディナントの地を訪れたマスハス=ローダントも、四頭の竜がたたずむ光景には息を呑んだ。テナルディエ公爵が、余興と称して、十といくつかの鉄の甲冑を地竜に踏み潰させてみせると、戦慄を覚えた。
「頼もしさより、恐ろしさが勝るの。竜たちの飼い主が、あのテナルディエ公だと思うとな」
 マスハスが灰色の髭をふるわせて、ティグルにささやいた。
 テナルディエ公爵は非道な男だ。質の悪い小麦を納めたという理由で、領内の町や村の者たちを鞭打ちの刑に処したとか、酒を供出しなかった町に対して、見せしめとして父と子を殺しあわせたとかいう噂がある。たとえ戦の前であっても、自分たちのような、テナルディエを支持していない小貴族を竜の餌にしてもおかしくない。マスハスの不安は当然のものだった。
「できるだけ目立たぬようにしていましょう。これだけの諸侯と兵が集まっているのです。彼らに近づかなければだいじょうぶですよ」
 マスハスを元気づけるように、ティグルは言った。
 ティグルには、この戦で武勳をたてるつもりはない。それでなくとも、剣も槍もろくに扱えず、弓などを使っているという理由で、諸侯や騎士から臆病者と蔑まれ、嘲笑されているのだ。よほどの活躍をしないかぎり、戦功などとうてい望めなかった。
「ところで、敵の……ジスタート軍の動きはどうなんでしょうか。こちらの陣容を見て撤退してくれるなら……」
「残念だが、敵はやるつもりらしい」
 ティグルの淡い期待を、マスハスはため息まじりに打ち砕く。
「さきほど小耳に挟んだが、ジスタート軍の兵力は約五千ほどだそうじゃ。指揮官は噂通り戦姫だそうだが」
「たった五千?」
 ティグルは目を瞠った。「たった」と言ったが、百の歩兵しか用意できないティグルにとって、五千というのは途方もない大軍である。だが、ブリューヌ軍は二万五千の兵に加えて、四頭もの竜がいるのだ。どう考えても勝ち目はない。
「だから、敵は援軍が来るまで動かないのではないかと、テナルディエ公らは見ておるらしい」
 マスハスの説明に、ティグルは納得してうなずく。
 だが、本当にそうだろうかと、不安まじりの疑問もわずかながら抱いた。
 四頭の竜は、こちらの陣容を大きく崩している。テナルディエ公が従えてきた五千の兵たちですら、竜に近づきたがらないからだ。それに、竜の威容を見たあとでは仕方ないとはいえ、もう勝ったつもりになっている者が少なくないことも気になった。
 しかし、竜は決して無敵の生物ではない。ティグルは二年前、ヴォージュ山脈で竜と遭遇し、かろうじて倒している。幸運に助けられたところは大きいと思っており、二度と戦いたくはないが。
(見方によっては隙があるんじゃないか)
 だが、ティグルはその懸念を口にはしなかった。言葉として発したら実際にそうなるのではないかという迷信的な不安にとらわれたことと、進言する相手がいないからだ。ティグルのような小貴族が、大部隊を指揮する者たちのところへ足を運んでも、門前払いをくわされるだけなのは違いなかった。
 ブリューヌ軍は前衛と後衛にわかれ、四頭の竜と二万の兵からなる前衛は小高い丘のふもとに、レグナス王子のいる本隊を含めた五千の兵は丘の上に布陣する。ティグルやマスハスは後衛に組みこまれた。


 馬蹄の轟きと剣戟の響きで、ティグルは目を覚ました。
 幕舎を飛びだす。まだ空は薄暗いが、夜明けが近いとわかった。
 幕営を見回すと、不自然に明るい。「敵襲!」という叫び声がいくつも聞こえる。ジスタート軍が奇襲をかけてきたのだと悟った。明るいのは、火を放たれたのか、篝火が倒れて幕舎に燃え移ったのだろう。
「若!」
 側仕えのバートランがすぐそばに現れる。彼の無事を喜びつつ、兵たちを呼び集めた。丘の上は混乱に包まれていたが、兵の数がわずか百であったことが幸いし、すぐに全員集まる。
 幕営の様子は惨憺たるものだった。味方は完全に不意を衝かれ、多くが右往左往している。敵と味方が入り乱れて戦い、敵の騎兵の集団が、剣や槍を振りまわしてすぐ近くを駆け抜けていく。逃げまどう多数の味方が、人間の洪水となって自分たちまで押し流そうとする。この状況では、へたに戦っても被害を受けるだけだ。
「もう少しましな……敵に囲まれないようなところへ移動する」
 勇敢で、王家に忠誠を誓っている諸侯なら、命がけで王子をさがすのかもしれない。
 ふと、そんな考えが頭の中に浮かぶ。ティグルは首を横に振って、その考えを消し去った。そのような無謀な真似をすれば、領地から連れてきた百人の兵をどれだけ死なせることになるだろうか。マスハスとすら合流できないかもしれないのに。
 ティグルはまず、自分の兵たちに対して責任があった。
 こちらへ向かってくる気配を見せたジスタート騎兵を何人か射倒して、戦場の中心から慎重に離れる。ふと、丘のふもとにいる前衛の様子が気になった。もしも前衛が突破されたら、そちらからも敵が来る。
(多少の危険を冒してでも、様子を確認しておくべきか)
 ティグルはバートランに兵たちを任せると、ひとりで丘の斜面を駆けだした。薄闇にまぎれて行動するのは、狩りで慣れている。狩りは小さなころから得意だった。アルサス……山野ばかりの彼の領地が、ティグルを一流以上の狩人として鍛えあげた。
 ほどなく、ティグルは前衛の様子を見下ろせる丘の中腹に立った。
 やはりというべきか、前衛も敵の奇襲を受けているようで、怒号や悲鳴が聞こえてくる。
「竜がやられた!」
 そんな叫びが聞こえて、愕然とした。いまの言葉が事実であれば、敵には竜を討ちとることのできる何かがある、あるいは何者かがいるということになる。さすがに見間違いか、聞き間違いだと思いたい。
(どうする? もう少し近づくか?)
 意を決して、斜面を駆けおりる。だが、ティグルの不安を打ち消すように、前衛を包む混乱は徐々に小さくなっていった。敵が撤退しつつあるらしい。
(こちらの敵が退いたなら、丘の上の戦いも長くは続かないな)
 安堵に胸をなでおろし、ティグルは兵たちのところへ戻ろうと走りだす。
 そのとき、何かを踏みそうになって、とっさに避けた。見ると、ひとが倒れている。
(味方か? 敵か?)
 この状況ではどちらでもおかしくない。ティグルは一歩離れて、倒れている者の様子をうかがった。気を失っているようで、ぴくりとも動かない。地面に膝をついて、慎重に観察する。
 娘だった。自分と同じぐらいの年齢の。
 長い銀色の髪の持ち主で、青を基調とした軍衣に身を包み、手には見事なつくりの剣を握りしめている。
(女の騎士か、貴族の令嬢か……?)
 ともあれ、敵に違いない。もしも味方にこのような娘がいたら、話題になって、自分はともかくマスハスの耳に入っているはずだ。
「う……」
 娘がうめいて、身じろぎをした。身体中、汚れていて、いくつか傷を負っている。とくに肩と背中には大きな火傷があった。
「放っておくわけにもいかないな……」
 ティグルは彼女を抱き起こし、背負って、歩きだした。このことはアルサスの者以外の誰にも……マスハスにも話せない。報告すれば、この娘は取りあげられ、テナルディエか誰かの捕虜になるだろう。自分の手柄にならないのはともかく、助けるからには、ひどい目にあってほしくない。
 甘いのだろうと思う。この娘も、剣を持っているからにはブリューヌ兵を討ちとっているはずだ。敵なのだ。
(おたがいさまですんでくれればいいが)
 自分だって、ジスタート兵を射倒した。
 ほどなく、ティグルはバートランらのところへ戻った。
 彼らの協力もあって、娘の存在は隠し通すことができた。また、マスハスともおたがい無事に再会できた。


 丘のふもとで兵たちを指揮しながら、テナルディエ公爵は憮然としていた。
 四頭の竜のうち、地竜と飛竜が敵に打ち倒されたからだ。
(戦姫とは恐ろしいものだ……)
 今度の戦で、テナルディエが四頭もの竜を用意できたのは、ドレカヴァクという老占い師の力によるものだった。
 ドレカヴァクは数年前からテナルディエに仕えており、何かと役に立つので重く用いていたが、今度の戦に先だって、竜を用意してみせると言った。
「本当にできるならば、たいしたものだが」
 テナルディエは最初、そう言って本気にしなかった。
 だが、ドレカヴァクは見事に竜たちを連れてきた。
 そして、この老人にしては珍しく、けしかけるように言った。
「この戦を利用して、障害となる者をことごとく排除なさいませ」
 テナルディエは、臣下の身でありながら、王国で最大の権力を手にするという野心を抱いている。
 そのような彼にとって、障害となる者は国内に三人いた。
 ひとりは国王ファーロン。
 もうひとりはレグナス王子。国王ファーロンの嫡男で、次代の王となる若者だ。だが、レグナスが本当はレギンという名の娘であることを、テナルディエは知っている。
 三人目は、自分に劣らぬ権勢を持つ大貴族ガヌロン公爵だ。
 この戦場には、レギンとガヌロンがいる。
 また、敵軍の指揮をとっているエレオノーラという戦姫も、場合によっては自分の敵となるだろう。
 レギン、ガヌロン、エレオノーラをまとめて葬り去る。四頭の竜を使えば、その目的はたやすく達せられるはずだった。
 夜明け近くにジスタート軍が奇襲をしかけてきたところまでは、よかった。
 テナルディエは混乱に乗じて、丘の上にいるレギンの幕舎と、丘のふもとにいるガヌロンの幕舎を、それぞれ襲わせた。また、ジスタート軍に対しては竜たちを差し向けた。
 だが、ジスタート軍を率いている戦姫によって、二頭の竜がやられた。双頭竜と火竜がようやく撃退したが、エレオノーラは取り逃がし、ジスタート軍もすみやかに撤退した。たいした打撃は与えられなかった。
 レギンについても同様だ。彼女は護衛に守られながら逃げて、暗闇の中に姿を消したという。
 ガヌロンだけは、討ちとったという報告がもたらされた。
(完璧にとはなかなかいかぬものだが、竜を二頭失って、手に入った首はひとつだけか)
 もっとも、レギンについてはそれほど悲観してはいない。若い娘の脚ではたいして逃げられないだろう。戦の事後処理をする傍ら、捜索し、見つけ次第、始末すればいい。
 ジスタートも今日の敗北で、しばらくはこちらに干渉してこないだろう。ひとまずはそれでいい。
(双頭竜と火竜は無傷で手元にいる。この二頭がいれば、国内に敵はおらぬ)
 ガヌロンの領地をすみやかに制圧し、それから王都をおさえる。
 妻のメリザンドはファーロン王の姪であり、直系ではないものの王家の血が流れている。すなわち、自分の息子であるザイアンも。それを理由に、息子を要職につけさせ、王宮を侵食していく。
(テナルディエ家が、次代以降の王家となるのだ)
 野望を確実に押し進めている。その実感が、テナルディエに笑みを浮かべさせた。


 ディナントの戦いは、ブリューヌ軍の勝利であるとも、ジスタート軍の勝利であるともいわれる。
 損害が大きいのは、ブリューヌ軍の方だ。ジスタート軍の奇襲によって三千近い兵と二頭の竜を失い、大貴族のガヌロン公爵が討たれ、総指揮官であるレグナス王子が戦の混乱の中で行方不明になったのだから。テナルディエ公爵の指揮の下、軍としての形は維持できているが、兵たちの動揺は小さくなかった。
 だが、ジスタート軍も奇襲が完全にうまくいったわけではなく、ブリューヌ軍の反撃を許した。しかも、夜が明けるとすみやかにディナントの地から撤退した。
 ブリューヌ軍には知られていなかったが、彼らは深刻な問題を抱えていた。総指揮官である戦姫エレオノーラが行方不明になったのだ。彼らはそれを隠して、いかにも奇襲で勝てなかったので退いたというふうに見せて、戦場から去ったのである。
 最後まで戦場に留まっていた側を勝者とするならブリューヌ軍の勝利だが、より大きな損害を与えた方を勝者とするならジスタート軍の勝利となる。
 そんな、何とも微妙な戦いとなったのだった。


 意識を取り戻すと、視界にくすんだ青空が広がった。
 エレン……エレオノーラ=ヴィルターリアは粗末な担架で運ばれていた。
 彼女を運んでいるのは配下のジスタート兵ではない。ブリューヌ兵、それもあまり上等な武装をしていない者たちだ。
 だが、彼らは敵意や悪意をエレンにぶつけてこなかった。担架を地面におろし、誰かを呼びに行く。
 ほどなく、自分と同じぐらいの年齢だろう、くすんだ赤い髪の若者が現れた。
「起きたか。身体の具合はどうだ? 応急処置はすませたが、それぐらいしかできなくてな」
 若者はティグルヴルムド=ヴォルンと名のった。ブリューヌ貴族で、アルサスという領地を治める伯爵だという。
(つまり、私は敵軍に捕らえられたのか)
 リムは、親友にして副官を務めるリムアリーシャは無事だろうかと、心配する。
 敵陣への奇襲を成功させたあと、エレンは兵の指揮をリムに任せて、自身は竜たちに挑んだ。まとめて打ち倒せば、敵の士気を一気にくじくことができると考えたのだ。
 地竜と飛竜は打ち倒せた。
 だが、火を吐く火竜には、やられた。竜だろうと滅ぼす『竜技』が、自分の持つ『竜具』の力が、なぜか発動しなかったのだ。そのあとは、火竜の炎や双頭竜の突進を避けながら、竜たちを自分の方に引きつけ、ジスタート兵に向かわせないよう駆けまわった。竜たちから離れれば、竜具の力は発揮できた。
 しかし、それにも限界がきて、とうとう火竜の炎が身体をかすめた。
 そのあとのことはうろ覚えだ。味方が逃げたのを確認したあと、自分は反対方向へ……丘の斜面へと逃げた。そして、ひとけのない暗がりで気を失ったのだ。
「私の名はエレオノーラ=ヴィルターリア。ジスタート王国の中にあるライトメリッツ公国を治める戦姫だ」
 エレンは堂々と名のりを返して、これから自分はどうなるのかを問うた。ティグルは困ったように髪をかきまわした。
「とりあえず、一日か二日は俺たちといっしょにいてほしい」
 それから、ティグルはエレンに事情を話した。
 ジスタート軍は、夜明けに合わせるかのように撤退していった。
 だが、ブリューヌ軍は陣容を立て直しつつ、すぐには警戒をとかなかった。
 戦は終わったと、テナルディエ公爵が兵たちに告げたのは、日が高くなってからである。このときには、ブリューヌ軍の総指揮は、代行という形で彼がとっていた。
 テナルディエは、レグナス王子は自分が責任をもって捜索すると言い、軍を解散して、ティグルやマスハスなど、自分を支持していない諸侯にはわずかな褒賞だけを与えて帰還を命じた。
 目障りな者、自分の役に立たない者を早々に追いはらおうという魂胆なのはあきらかだったが、五千の兵と二頭の竜を抱えるテナルディエに逆らえる者などいない。グレアスト侯爵など、ガヌロンを支持していた諸侯たちでさえ、不満を述べつつも去ったのだ。ティグルたちも、ディナントの地をあとにするしかなかった。
 そうして昼をだいぶ過ぎたころ、エレンが目を覚ましたのである。
 話を聞き終えたエレンは、率直にティグルに聞いた。
「だいたいわかったが、一日か二日というのはどういう意味だ? おまえは私を捕虜にして領地へ連れ帰り、ライトメリッツに身代金を要求するつもりなのだろうと思ったが」
 ティグルは少し驚いたような顔をして、首を横に振る。
「考えつきもしなかったな。俺が君を助けたのは、誰にも言ってないんだ。知られたら、たぶんまずいことになるからな。傷の具合にもよるが、動けるようになったら、ブリューヌ軍に見つからないように帰ってくれという意味だ。身代金をとるつもりはないから安心してくれ」
 エレンは珍種の生物でも見るような目でティグルを見た。
「私の身代金は、高いぞ? 金貨を積みあげて山ができる」
 一瞬、ティグルが呼吸を止める。その光景を想像したに違いない。だが、彼は苦笑して肩をすくめた。
「俺のような貧乏貴族がそんな大金を急に手にしたら、すぐに怪しまれるよ」
 どうも本当に善意で自分を助けたらしいとわかって、エレンもまた苦笑する。少なくともこの男なら、途中で考えを変えたとしても、自分を手荒に扱うことはないだろうと思えた。
 安心したからか、腹が鳴った。さすがに恥ずかしくて頬を染め、顔を伏せる。ティグルは笑って言った。
「悪いが、休憩と食事は半刻先だ。もう少し我慢してくれ」
 言い終えると同時に、ティグルの腹も鳴る。二人は顔を見合わせて、どちらからともなく笑いあった。
 なお、エレンは出された食事……干し肉や、即席のシチューなどを実においしそうにたいらげた。ティグルが意外だという顔で「戦姫というから、こういう食事は我慢して食べるものだと思っていた」と言うので、エレンは「昔はこういう食事ばかりだったからな。それに、捕虜の身でケチをつけようとは思わない」と、冗談めかして返したのだった。


 二日が過ぎた。この間に、ティグルとエレンは空いた時間を見つけては言葉をかわした。
 ティグルが「君たちはどうやって竜を倒したんだ?」と聞けば、エレンは得意げに胸を張って、「二頭とも、私ひとりで倒したんだ。どうやってかは教えられないが」と答えた。
 エレンが「ところで、どうしておまえは弓を背負ってるんだ? ブリューヌは弓を蔑んでいると聞いているが」と問えば、ティグルは「俺が得意なのはこれだけだ。剣も槍も苦手でな」と答え、エレンはぜひ弓の腕を見たいとせがんで、ティグルの弓の技量を見て、感嘆の声をあげた。ティグルは嬉しそうだった。
 ティグルが内緒話を打ち明けるように「実は、俺も竜を倒したことがある」と言うと、エレンは目を輝かせて話を聞きたがった。
 そのような次第で、二日が過ぎたころには、二人はかなり打ち解けていたのである。
「もしかしたら、王子殿下の捜索のために、テナルディエ公爵の軍がまだディナントにいる可能性はあるが……。大きく避ければライトメリッツに帰れるんじゃないか」
 ティグルにそう言われて、エレンは考えこんだ。
 エレンが戦場で負った傷は、当然ながらまだ完治していない。しかし、馬を走らせることができるぐらいには回復していた。
「いや……」
 しばらくして、エレンは首を横に振った。
「おまえさえよければ……アルサスといったか、おまえの領地にしばらく滞在させてくれ」
 予想外の頼みに、ティグルは目を丸くしてエレンを見つめる。真剣な表情で尋ねた。
「一応、聞くが、素性を隠してだな? 理由は何だ?」
「おまえから聞いた戦の結果について、あれこれ考えてみてな」
 テナルディエやガヌロンの名は、エレンも知っている。
 ガヌロンが死に、王子が行方不明になった、そしてテナルディエは竜という強大な力を持っている。
「近いうちに、この国では大きな混乱が起きる。国自体が揺れるほどのな。私のライトメリッツはヴォージュ山脈の向こう側にあって、ブリューヌで何かが起きれば、その影響を受けずにはすまない。情勢の変化をいち早くつかむには、ブリューヌにいた方がいい」
 それから、エレンはペンと紙、使者となれる者をひとり借りたいと言った。
「ライトメリッツに、私の無事を知らせる手紙を出したい。ついでに、おまえに礼金をはずむようにとも書いておいてやる」
「わかった。そちらはすぐに用意する。だが、混乱が起きると予想しながら、ブリューヌに留まるのか? 俺では、いざというときに君を守れるか、わからないぞ」
 ティグルが気遣って言うと、エレンは不敵な笑みを浮かべた。
「逆だ。助けてくれた恩返しに、力を貸してやる。こう言っては何だが、私は頼りになるぞ」
 それに、エレンには二つばかり気になることがあった。
 四頭もの竜を、テナルディエはどうやって手に入れ、また従えたのか。
 火竜に対して、自分の竜具が力を発動しなかったのは、なぜか。竜具の力が通じなかったのではない。発動しなかったのだ。これははじめてのことであり、驚くべきことだった。ジスタートの戦姫として、この謎を放っておくことはできなかったのだ。


 その後、エレンの予想通り、大きな混乱がブリューヌを包んだ。
 ブリューヌをその手につかまんとするテナルディエと、ガヌロンを支持していた諸侯らの衝突、王都ニースを巡る争い、地方の諸侯らの団結と主導権争い、実は生きていたガヌロンの登場、王女を名のる娘の出現等々……。
 むろん、ティグルとアルサスもその嵐に巻きこまれるが、エレンの協力によって数々の窮地を切り抜けていくことになる。


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# by tsukasa-kawa | 2026-04-02 11:00 | SS

3月25日の話

3月25日の話_e0172041_22310284.jpg

 原作・漫画:的良みらんさん 原作:川口士 でお送りする
 ニコニコ静画さん内「水曜日はまったりダッシュエックスコミック」にて、0、1話、2話(前)、7~14話を公開中です。
 最新の更新は第14話(後)。庵路と夢を共有して、その記憶の中に入った飛白。彼女が見たのは庵路とつきあい、愛を育んでいった華澄の姿でした。子供も生まれ、幸せに暮らしていた三人を、黒い何かが引き裂き、塗り潰し、そして最後に飛白の姿が映ったところで庵路は目を覚まします。飛白に過去を教えるための夢で、どうして最後に飛白の姿が浮かんだのか。
 そして鮎の浄化は無事に完了。よかったよかった。
 次回の更新は4月5日(日)。華澄について知った飛白は、どう動くのか。
 さて、この100巫女ですが、電子コミック、電子ノベルを特化して取り扱っている
 にて、(無修正版)独占配信させていただいております。現在0~12話まで。
 また、単行本1巻も好評発売中。まだ買ってないという方はぜひ。

 さて、一週間ぶりですね。世間は春休みでどこへ行ってもなかなかの混雑ぶりですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
 僕はまったく変わらず仕事とか仕事とかの日々を送っていますが、そういえば「パリに咲くエトワール」は先日観てきました。殺陣作画監督とメカデザインで(発表当時)話題の。夢を抱いて20世紀初頭のパリを訪れた二人の少女の物語。
 どちらかというと僕は監督の名前で期待していた面があったのですが、期待どおりのおもしろさでした。ひとりだけだと前に進めないけど、二人そろった途端にぐあーっと前に進んでいく二人組の話を描くのが、このひとは本当にうまいですよねえと。殺陣作画監督がいたのもいろいろと納得。あと20世紀初頭のパリといっても、あまり難しく考えなくてもいいと思います。舞台はあくまで舞台といいますかね。リアルとリアルじゃないの乱高下が激しい作品だなあと観ていて思ったので。個人的にはフジコさん(主人公の片割れ)にもうちょっと尺を割いてあげてほしかったと思ってますが、楽しい時間を過ごせました。監督の作風がかなり出ていると思えるので、そこが好みならおすすめです。


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# by tsukasa-kawa | 2026-03-25 23:00 | 日常雑記

3月18日の話

3月18日の話_e0172041_22310284.jpg

 原作・漫画:的良みらんさん 原作:川口士 でお送りする
 ニコニコ静画さん内「水曜日はまったりダッシュエックスコミック」にて、0、1話、2話(前)、7~14話(前)を公開中です。
 最新の更新は第14話(前)。庵路に強烈なショックを与えて消え去った華澄と黒い何か。飛白に事情を聞かれた庵路は、共夢湯によって夢を共有することで、華澄について説明することに。そして鮎は珠々波たちによって手当て? を受けるのでした。
 次回の更新は3月22日(日)。あと数日、お待ちくださいませ。
 さて、この100巫女ですが、電子コミック、電子ノベルを特化して取り扱っている
 にて、(無修正版)独占配信させていただいております。現在0~11話まで。
 また、単行本1巻も好評発売中。まだ買ってないという方はぜひ。

 さて、一週間ぶりですね。桜の開花予想などもはじまり、順調に春っぽくなってきましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。僕は依然として仕事と花粉と戦っています。ドラクエ7はゆるゆる進めてフォロッドまで行きました。
 先日、スーパーの文具コーナーでだるまを見たんですよ。たしかに僕が学生だったころも、必勝祈願にだるまを買う家庭はあったけど、こんなに日常的に売りだしてはいなかったなあとか思いながら眺めてたら、手足のついただるまがありましてね。
 それはいいのだろうかと、思ったのです。
 だるまに手足がないのは、だるまの由来となった達磨大師が9年の座禅を行ったことで手足が腐ってしまったから、などというエピソードがまことしやかに語られているのですが、まあそれは横に置いておいて。
 そもそも現在のだるまは、中を空にしつつ底に重りを入れて重心を低くすることで、倒れない、起きあがる、そういう不屈の存在として語り継がれてきたのではなかったか。それなのに手足をつけてどうするのか。足がついたことで倒れにくくなった? いや、アンバランスすぎるやろ。だいたい手足細くて短いし。それに、かえって一度倒れたら起きあがるのにめちゃくちゃ苦労する形になってしまっている。倒れたあと、横に転がって起きあがろうにも今度は手が邪魔だ。過ぎたるは及ばざるがごとしといいますが、こんなだるまに必勝祈願の力があるんだろうか。
 しかし、もしかしたらこの手足はだるまの願いという可能性もある。誰だって自分にないものはほしいですからね。じゃあこの手足はどう活かせばいいのかと考えてみた結果、どうせ中身が空なんだから使わないときは亀のように引っこめればいいのではという結論が出ました。通常だるま形態と、ヒト型形態の使い分けですよ。まあヒト型形態の活かしどころはあるのかというと、長い長い熟考が必要になりそうですが……。


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# by tsukasa-kawa | 2026-03-18 23:40 | 日常雑記

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