8月20日のお話

 ついに古典的怪談に手を出してしまいましたよ。まあお盆の時期も過ぎ去ったし、灯籠流しの記事もちらっと見たしで、タイミング的にはちょうどいいかなとも思いまして。
 で、牡丹灯籠です。本来は長編で、幽霊はどっちかというと添え物じゃないのという感じのドロドロした人間ドラマが展開するのですが、牡丹灯籠の名で広く知られているのは、その本編から一部を切り取って短編化したものではないかと思われます。古典だけあってバリエーションがえらく広いのですが、
・お盆の夜、浪人の新三郎のもとに旗本の娘であるというお露が会いに来て、二人は恋仲になる。
・牡丹灯籠というのは、お露が持っている灯籠から。
・新三郎は日ごとにやつれていき、それを心配した陰陽師が話を聞いて、お露が怨霊であると看破する。
・陰陽師の友人の和尚が用意してくれた仏像とお札で、お露が近づけないようにする。
・お露、新三郎の下男の伴蔵に接触して交渉。伴蔵の妻のお峰が「金百両くれたらやるよ」と答える。
・お露、金百両を用意する。
・伴蔵とお峰、お札をはがし、仏像を偽物とすり替える。
・翌朝、新三郎が死んでいるのが発見される。
 基本的にはこんな流れでしょうか。お露の用意した金はとあるところから盗んだものだったり、毎晩お露に呼びかけられた新三郎が、騙されて、あるいはお露への想いに負けて自分から彼女に会って命を落とすというパターンもあるようですが、どのパターンだろうが新三郎は死にます。どの選択肢を選んでも死ぬゲームのようです。ホラー映画でいうならバッドエンドですよ。お露視点で見ればハッピーエンドですが。
 それにしても、実体は骸骨なのに新三郎に対しては生きた頃の姿を見せたり、お札を使われたら下男に接触して打開策を図ったりと、この怨霊、かなりアグレッシブです。ここまでやってくると、まあ仕方ないんじゃないのという気すらしてきます。もし下男夫婦が言うこと聞かなくても、絶対に別の手打ってくるよこいつ。金まで用意できるんだもの。
 この執着心、さらに憑き殺そう=自分の側に無理に合わせるということを考えると、お露は元祖ヤンデレというべきかもしれません。
 幽霊が幽霊として存在しながら、当たり前のように主人公の側にのほほんと居候できる漫画や児童書、ライトノベルはありがたいよねえ……。



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by tsukasa-kawa | 2017-08-20 12:34 | 日常雑記

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