キャンペーンは先週終わりましたが(お買いあげくださった皆さま、ありがとうございました!)、全五章、好評配信中です。まだ買っていなかったという方、興味を持ってくださった方はぜひ。
原作・漫画:的良みらんさん 原作:川口士 でお送りする
ニコニコ静画さん内「水曜日はまったりダッシュエックスコミック」にて、0、1話、2話(前)、7、8、9、10、11、12話(前)を公開中です。
最新の更新は第12話(前)。不可解な事件が起きた海水浴場に、原因究明のためにやってきた飛白たち一行。霊脈のある一帯であり、黒泉活性の影響を受けてもおかしくないことから、飛白たちは自らをエサとして怪異を誘いだそうとするのですが……。
次回の更新は1月25日(日)。冒頭から海苔だらけでごめんなさい。後半へと続く~。
さて、この100巫女ですが、電子コミック、電子ノベルを特化して取り扱っている
にて、(無修正版)独占配信させていただいております。現在0~9話まで。
また、
単行本1巻も好評発売中。まだ買ってないという方はぜひ。
追加でもいっちょ宣伝。

サークルウリボックスさんが昨年末にこさえた新刊群、
・魔弾の王と蒼月の輪舞
美弥月いつかさんの描いたリュドミラの表紙が目印。僕は短編を寄稿しています。
・魔弾の王と小さな幸せ
学園魔弾でお世話になったかたせなのさんに凍漣魔弾の漫画を描いていただきました! 僕は掌篇を寄稿しています。
・ウリボックス冒険の書
もりたんさんの描いたムーンブルクの王女とサマルトリアの王女が目印。僕は短編を寄稿しています。
・甘イキソラノと聖夜の誓い
千の魔剣のイラスト等のnioさんのアイギス本(R18)です。
新刊それぞれの詳細はウリボックスさんのサイトであるこちらをどうぞ。 さて、一週間ぶりですね。何かまだ1月なのに花粉の気配が漂ってきてびくびくしているんですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
というわけで、もう1月半ばなのにお年玉かよ? な感じでSSに移りたいと思います。楽しんでくださいな。
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ヴァンセンヌの狩猟場。
ブリューヌ王国の王都ニースの東にある一帯である。草原や川、森があり、歴代の王はたびたび狩猟祭を催して国内の貴族や国外の賓客を招き、親睦を深めたとされる。
父に連れられて狩猟祭に参加したティグルヴルムド=ヴォルンだったが、国王ファーロンと王子レグナスにお目通りしたあとは、父と別れてひとりで行動していた。
狩猟祭は、槍を用いるか、タカなどの猛禽を使う。弓は、下男などが獲物を主の前へ追いたてるために用いるていどだ。弓を蔑視するブリューヌでは、そのような使われかたがせいぜいだった。
であれば、弓しか取り柄のないティグルに出番はない。高位の貴族の子弟に目をつけられて嘲笑されたり、あごで使われたりするのも癪だ。
ティグルは人目を避けて、森に入った。そうして何とはなしに歩いていると、お目付役の目を盗んで抜けだしてきたレグナス王子に会ったのだった。
ティグルと同い年の王子は、ブリューヌにおいて軽蔑されている弓を、貴族の息子であるティグルが持っていることに興味を持った。使えるのか、と問われてティグルはうなずき、一羽の鳥を難なく射落としてみせた。
その鳥は、その場でさばいて、火を起こして、王子と二人で食べた。王子は興奮したように言った。
焼きたての、あたたかいものを食べたのははじめてだ、と。
このことは、二人の秘密にした。
ティグルは父にさえ、喋らなかった。
辺境の地を治める小貴族の息子が、王子と対等に口をきき、安全かどうかすらわからない鳥の肉を食わせたのである。
このことが露見したら、ヴォルン家はお取り潰しになる可能性が非常に高い。もしも王子が腹を壊しでもしたら、確実に地上から消える。そう思うと、怖くてとても誰かに話す気になれなかったのだ。
狩猟祭がつつがなく終わり、ティグルと父ウルスが領地であり、生まれ故郷であるアルサスに帰還してからおよそ一ヵ月後。
王都から「王子の使い」を称する使者が現れた。レグナス王子がティグルと話をしたいという。
さすがにただごとではないと、父は息子を問い詰め、ティグルは狩猟祭の場で王子と会ったことだけを話し、鳥を食べさせたことは隠し通した。また、使者も、「殿下はご子息のことを高く評価しておいででした。お叱りになるようなことはないかと」と、口添えしたので、父はひとまず安心した。
王都までとはいえ、十歳の子供に一人旅をさせるわけにはいかないので、側仕えのバートランと、バートランの手伝いをしているラフィナックがティグルに同行した。
王都に着くと、王宮にはすんなり通された。バートランたちは従者用の部屋で待機する形になり、ティグルはひとりだけ応接室に案内される。
ほどなく、レグナス王子がティグルの前に現れた。恐縮しつつも型通りの挨拶をするティグル。王子は「あれから大事ないか?」と、気さくに接してくれたので、ティグルはほっとした。使者の言葉を聞いても半信半疑だったが、どうやら例の件が露見したとか、そういう話ではなさそうだ。
レグナスはティグルをソファに座らせると、テーブルを挟んで向かい側のソファに座る。真剣な顔で言った。
「わざわざここまで来てもらったのは、卿にしか話せないことがあるからなんだ」
何かとてつもなく面倒で厄介そうな話だとティグルは直感で悟ったが、神妙な顔で聞くしかない。
「狩猟祭から数日が過ぎた日、夢を見た。ひどい……本当につらい悪夢だった」
「どのような夢でしょうか」
「我が国の精強な騎士たちが、他国の弓兵部隊に打ち倒され、蹂躙される夢だ。まるで現実のことのように生々しく、凄惨だった」
それはまたひどい夢を見たものだなあと、ティグルは素直に同情したが、続く王子の言葉に愕然とした。
「未来の光景だ。このままなら、我が国の騎士たちは、いずれそういう目に遭う」
何を言いだすんだこいつという目でティグルは王子を見た。もちろん王子はその視線に気づいて、子供らしく頬をふくらませながら、ティグルを軽くにらんだ。
「疑うのか?」
「いえ、その、夢でしょう? ひどい夢ならぼく……いえ、私もいろいろと見たことがありますが……」
しどろもどろになっていると、レグナスは立ちあがり、テーブルを回りこんで、ティグルの隣に座った。息が届く距離までぐいと顔を近づける。
「間違いない。あれは現実になる。騎士が、弓に敗北するんだ」
ティグルはうなずくことしかできなかった。レグナスは王子、つまり高貴な存在なので、いわゆる予知夢のようなものを見ることがあるのかもしれない。
レグナスはそのままティグルの隣に座って話を続けた。
「手を打たなければならない。一刻も早く。一日も早く。そこで、弓の得意な卿に新たな弓兵隊を創設してほしい」
何を言ってるんだこいつという目でティグルは王子を見た。
だが、逆らうことはできなかった。
とりあえず、ティグルは夢の内容を詳しく聞いてみた。
「敵軍は、丘の上に布陣していた。こう、鳥が翼を広げたような形で、中央には歩兵が集まり、左右両翼には弓兵がいた。我が軍は、その敵に正面から突撃したんだ。中央の歩兵を蹴散らして突破し、後方にまわって弓兵を打ち破る算段だったらしいが、突破できずに矢の雨を浴びて倒れた」
えらく具体的な夢だなあと、ティグルは感心した。これなら現実になると思っても、仕方がないかもしれない。
「殿下がご心配になったわけはわかりました。ですが、弓兵隊の編制は無理ではないでしょうか」
そもそも、ブリューヌは弓を軽んじている。
「弓は白刃の前に身をさらす勇気を持たぬ臆病者の武器」という考え方が当たり前のものとされており、弓兵の功績は評価の対象にならないことがほとんどだ。「弓兵は、徴兵した狩人、自分の土地を持たぬ農民。兵士の中からは重い罪を犯したことのある者、剣及び槍の技量について際だって劣る者から選ぶべし」という基準があるほどだ。
そのような国で新たな弓兵隊を創設するなど、とうてい無理な話だ。
まして、王子とはいえ十歳の少年と、同じく十歳の小貴族の子弟では、耳を傾けてくれる大人などいないだろう。
「頼む」
突然、レグナスはティグルの手を強く握りしめた。びっくりするティグルに、王子は頭まで下げてきた。
「私には卿だけが頼りなんだ」
ティグルは困った顔で王子を見つめた。このとき、頭をかすめたのは、「断り続けたら、狩猟祭の件をばらされるかもしれない」という可能性だ。
ヴォルン家がお取り潰しにあって地上から消えてしまう……。
「私のような者より、テナルディエ公爵やガヌロン公爵などを頼られては」
ひとまず逃げを打った。両者とも、ティグルのような子供でも名前を知っている大貴族だ。
ところが、レグナスは嫌悪を露わにして首を横に振った。
「その二人は何があってもだめだ。たしかに力のある諸侯だが、お父様をないがしろにしすぎている」
レグナスは、公爵たちがいかに国王ファーロンを悩ませているのかを長々と語って聞かせた。
最終的に、ティグルは音をあげた。
「わかりました。できるかぎりのことはやらせていただきます。ただ、私の父や、父の友であるローダント伯爵を頼らせてください。それがお引き受けする条件です」
この願いは承諾され、ティグルは弓兵隊を創設することになった。
ドンドコドコドコプップップー ドコドコドコドコパッパッパー ※軍太鼓とラッパの音
ティグルがレグナスの頼みを引き受けてから、二年が過ぎた。二人はともに十二歳になった。
その日、弓兵隊を指揮して山賊討伐を終えたティグルは、王宮に帰還してその旨を報告し、レグナスの賞賛を受けた。
「よくやってくれた、ティグル。弓兵隊を創設して二年になるけど、順調に武勲もたてて、よい形になってきたかな」
王子は、非公式な場ではティグルのことを愛称で呼ぶようになっていた。
「そうであればいいんですが」
ティグルは控えめに応じながら、この二年をぼんやりと振り返った。
弓兵隊の創設は、途方もない難事だった。
助力を頼まれた父ウルスも、父の親友マスハス=ローダントも、ティグルとレグナスを病人を見る目で見たものだ。二人が正気だとわかったら、誇大妄想にとりつかれた道楽息子を見る目で見た。
ともかく、二人はいろいろと手伝ってくれた。それぞれの領内から平民の狩人を集めて少数ながら部隊をつくり、ティグルとレグナスを指揮官として、やはり少数の山賊や野盗の情報を集め、討伐に勤しんだのだ。また、マスハスは次男のガスパールをティグルの補佐につけてくれた。他に、ウルスとマスハスの共通の親友であるオージェ子爵も、息子のジェラールや、兵となる領民を人手として出してくれた。
レグナスもがんばった。王子の政治能力は十歳とは思えないほどで、国王から正式に弓兵隊創設の許しを得て、王宮の一角に指揮所を設け、宰相と交渉して少額ながら予算を出させ、必要な備品をそろえたのだ。しばらくは自分たちの持ち出しになるのではないかと危惧していたウルスたちは胸を撫でおろしたという。
さらに、王子は情報も集めてきた。急ごしらえで少数の弓兵隊が討伐できる野盗や山賊など、たかがしれている。王子は、親しい諸侯や騎士からつぶさに話を聞いてまわり、弓兵隊で討伐できそうな、つまり弓兵隊と同数か、ちょっと多いていどの賊をさがしたのだ。
弓兵隊の戦い方は、ひとつしかない。
ティグルと、隠密行動に長けた狩人や猟師が敵の拠点をさがし、なるべく高所にまわって奇襲をかけるのである。
勝率は高く、損害はほとんど出なかったが、武具や矢にかかる費用、行軍中の食費などを考えると、王子の武勲ということにしても、武勲そのものが小さいので赤字だった。感謝している民はいるのだが、赤字は赤字だった。
国王や宰相は未来への投資と割り切っているようだったが、テナルディエ公爵などは邪魔をする価値などない、取るに足らぬ子供の遊びと冷ややかに笑い、弓を蔑視する騎士や貴族たちは「そら見たことか。まさに臆病者の戦い方ではないか」と露骨に嘲笑したものである。
笑われながらも、ティグルたちは地道にというか地味にちまちま武勲をたて、その一方で新兵候補をさがした。部隊創設時はとりあえず領民たちに加わってもらったが、彼らには彼らの日常生活があり、いつまでも縛りつけるわけにはいかない。
領内の、跡継ぎにも、跡継ぎの予備にもならない三男以下の男たちで、「飢えないていどの俸給があり、堂々と胸を張れる仕事」をさがしている者に、弓を学んで兵士にならないかと誘った。また、王都でも、仕事にあぶれた者や、剣も槍も苦手という者をさがして、弓兵隊に引きいれた。
そうして、新兵が入隊する都度、領内の狩人に礼を言い、報酬を渡して見送り、新兵が怪我で抜けたり、貴族や騎士からの罵倒に耐えられずに去ったりすると、再び領内の狩人に手伝ってもらい、顔ぶれをめまぐるしく変えながら、弓兵隊はどうにか二年がんばってきて、最近やっといくらか安定してきたのである。
なお、評判はあまりよくない。ずっと侮蔑されてきた弓兵が、たかだか二年、ちょっと活躍したぐらいで、人々から認められるわけがないのだ。
父ウルスは「ひとの意識を変えるのは容易ではない」と、息子をなぐさめ、励ましたものだった。
「ところで、殿下にお願いがあります」
王宮の一室で二人だけになったところで、ティグルは以前から考えていたことをレグナスに言った。
「私を、隣国のアスヴァール王国やザクスタン王国へ行かせてもらえませんか」
「……何のために?」
レグナスの表情が一瞬険しくなった。「自分を捨てる気か」とでも言いたげな目で見てくる王子に、ティグルは懸命に説明した。
「私たちはいろいろと手を尽くしてきましたが、自分たちだけではこのあたりが限界だと思います。さらに弓兵隊をしっかりしたものにするなら、弓兵隊を充実させて戦場で用いている他国を参考にすべきです」
この二年で、弓兵隊に対するティグルの思いはだいぶ変わっている。
最初のうちこそ、秘密を守るためにはレグナスに従うしかないと自分に言い聞かせながら役目を果たしていたが、いまでは弓兵たちのために精一杯、力を尽くし、彼らの働きが正しく評価されるようにしたいという気持ちになっていた。
レグナスは「うーん」と考えこむように横を向く。
王子の横顔を見つめて、やはり、女の子に見えないこともないなあと、ティグルは思った。
この二年、ティグルは王宮に一室を与えられ、王宮で生活してきた。ずっと王子を間近で見てきた。
王子は、武芸が得意ではないようだ。剣も槍も弓も、型通りには扱えるが、それだけである。
身体を鍛えることもしない。ティグルたちにつきあったからか、体力はそれなりについたらしいが、身体つきは華奢なままだ。顔つきもやわらかさを感じさせる。ときどき、王子が女の子っぽく見えるなあと、ティグルはひそかに思っていたのだ。もちろん不敬なので口に出したことはないが。
「理由としては説得力があるけど」
そう言って、レグナスがティグルを見る。
「ティグルは女性に弱いのが気になるんだ」
「そうでしょうか?」
「ジャンヌやリュディと話しているとき、ときどきだらしない顔になっているもの」
そうかなあと内心で首をひねった。ジャンヌもリュディも王子の護衛だ。二人とも女性で、ジャンヌは生真面目で厳しいが、優しいところもあり、リュディは明るく行動的で、何かにつけてティグルを振りまわした。
いまだに垢抜けないティグルとしては、いかにも王都で長く生活して洗練された騎士である二人に気後れしており、彼女らと世間話をするときでさえ少し緊張するのだが、レグナスの目にはだらしないように見えてしまっているらしい。
「ティグルはね、私がそばにいて見てあげないと、危なっかしいと思うんだ」
「お気遣いは嬉しいのですが、お願いできませんか」
ティグルは頭を下げて頼みこんだ。レグナスはティグルに近寄ると、その手を強く握りこむ。
「ティグル、弓兵隊は私たちのものだね?」
「殿下がお考えになって創設したのですから、殿下のものでは?」
ティグルが素直に答えると、レグナスはティグルの手を握る手にいっそう力をこめて、首を横に振った。
「違う。弓兵隊は、私たち二人が生みだしたものだよ。そのことを忘れずにいてくれるなら、認めよう」
「忘れるわけがありません」
ティグルは笑って答えた。
「私は殿下に感謝しています。これだけ多くの弓使いと部隊を編成し、ともに励ましあって今日まで来られたのは、誇りだと思っています」
「信じるよ、その言葉を」
レグナスは目をきらきら輝かせて続けた。
「戦場に向かう夫を送りだし、家を守る妻のように、弓兵隊は私がしっかり管理しよう」
ときどき殿下は変なたとえをするなあと、ティグルは思った。
ともあれ、こうしてティグルはブリューヌを離れ、まずはアスヴァール王国へと旅だったのだった。
ドンドコドコドコプップップー ドコドコドコドコパッパッパー
二年が過ぎた。ティグルとレグナスは十四歳になった。
ティグルは一年をアスヴァールで過ごし、ブリューヌに帰還すると、アスヴァールでの出来事を報告し、数日間休息して、今度はザクスタンへと旅だった。そして一年をザクスタンで過ごし、いま王都ニースに帰ってきたのだった。
「お帰り、ティグル」
王宮の一室で二人きりになると、レグナス王子はティグルに飛びついて抱きしめた。ティグルは驚きつつも王子を受けとめ、レグナスが自分の帰りをこんなに喜んでくれたことを、嬉しく思った。
「ただいま帰りました、殿下。変わらずご壮健のようで何よりです」
言いながら、ティグルは内心で首をかしげた。レグナスは太ったわけでもなく、華奢なのに、不思議なやわらかさを感じる。それに、甘やかな匂いがした。
急に、レグナスはおおげさに飛び退って離れた。顔を赤らめて咳払いをひとつする。
一年ぶりの再会だから嬉しくなったものの、さすがに王子として品がないと思ったのだろうか、とティグルは考えた。
レグナスは気を取りなおして、ティグルの前まで歩いてくる。ティグルを見上げた。
「背、伸びたね。それにたくましくなった」
「殿下もすぐに私に追いつきますよ」
「私はこれぐらいの差があってもかまわないけど」
それから、レグナスは弓兵隊について説明した。ティグルが不在だった間、弓兵隊は野盗の討伐を大きく減らした。敵の拠点を突きとめて奇襲をかける手が使いづらくなった……ティグル以外の者でもやれなくはなかったが、精度が落ちた……のだから仕方がない。
代わりに、街道警備に重点を置いた。町から町まで、城砦から城砦まで行軍し、賊の類が街道に寄りつかないよう牽制するのだ。これはそれなりに知名度を高める効果があった。また、こちらを侮って襲いかかってきた野盗を何度か迎撃して、武勲をたてたこともあった。
とはいえ、活動の幅を広げることができたわけではない。現状維持に努めたというのが正しい評価だろう。
「それから、またあの夢を見たんだ」
「我が国の騎士たちが、他国の弓兵部隊に敗れる夢ですか?」
ティグルが確認すると、レグナスは暗い顔でうなずいた。
「殿下にはおつらいでしょうが、あらためて、夢について詳しく聞かせていただけませんか」
レグナスをはげましながら、ティグルは聞いた。あの夢について話したとき、ティグルもレグナスも十歳だった。
いまは十四歳だ。まだ十四歳でしかないが、少なくとも四年前よりは知識を蓄えている。何かわかることがあるかもしれない。
レグナスはうなずき、話しはじめた。
「敵軍は丘の上に布陣していた。鳥が翼を広げたような形で、中央には歩兵が集まり、左右両翼には弓兵がいた……」
新たにわかったことがあった。中央にいる歩兵は、騎兵が下馬した者たちだということ。左右両翼の弓兵たちは、前面に柵をたて、穴を掘り、また棘だらけの木を転がすなどして、敵が自分たちに向かって突撃してこないよう対策をたてていたこと。
その敵に正面から突撃したブリューヌ軍についても、わかったことがあった。彼らの数は敵の倍以上だったこと。騎士だけで構成されていたわけではなく、石弓を使う部隊もいたこと。そして、敵の矢の雨を防ぐために大盾を戦場に運ばせていたこと。
ところが、物資の運搬が遅れ、大盾は戦場に届かなかった。
しかし、彼らは数の差で押しきれると判断し、準備不足のまま突撃したのだった。
話を聞き終えて、ティグルは難しい顔になった。
これは、弓兵が騎士に勝ったという話ではなく、準備万端整えた側が、準備不足の相手を迎え撃って勝ったという話なのでは?
そう思ったが、もう弓兵隊は創設されて四年たっている。ティグルは部隊に愛着があるし、弓兵たちは……不在だった二年の間にまた顔ぶれがけっこう変わったと聞いてはいるが……皆、大切な仲間だ。それに、弓兵隊がひとつの部隊として正しく機能し、歩兵や騎兵、騎士たちと連携をとれれば、戦いの幅が大きく広がることを、ティグルはアスヴァールとザクスタンで学んだのだ。
「ご安心ください、殿下」
ティグルはレグナスを元気づけるように、力強く言った。
「弓兵隊を成長させれば、騎士たちにも認めさせることができれば、殿下の見た悪夢は回避できます」
「ありがとう、ティグル」
ティグルを見つめて、レグナスは笑顔で礼を言った。
「ところで」
王子は疑わしげな目でティグルを見る。
「ザクスタンでは、危険な出会いはなかっただろうね? アスヴァールに行ったときは、ギネヴィア王女にだまされそうになったんだろう?」
「とくにだまされてはいませんが……。まあいろいろと無茶な要求をされたり、誘われたりはしましたが」
ギネヴィアは、ティグルがアスヴァールに一年間滞在していたときに知りあい、世話になった、アスヴァールの第一王女である。円卓の騎士の縁の地を巡るのが何よりも大好きで、ティグルは熟練の弓使いを紹介してもらうという条件で、彼女の従者のような扱いでアスヴァールの各地に行く羽目になった。もっとも、彼女は約束を守ってハミッシュという長弓の使い手を紹介してくれたので、それほど不満はない。
また、彼女はティグルが弓しか取り柄がないことでブリューヌで冷遇されていることに同情し、「ブリューヌを捨てて私に仕えてもいいのよ」と、真剣に誘ってきた。自分はレグナスに仕えているからと断りはしたが、魅力的な話だったのはたしかだ。
「ザクスタンでは」
と、ティグルは旅の成果を話す。
「運よく、アトリーズ王子殿下にお目通りがかないまして、殿下から弓使いを紹介していただき、弓兵隊のことを学ぶことができました」
ティグルが楽しそうに語ることもあって、レグナスは機嫌よさそうに話を聞いた……。
その後、ティグルが持ち帰ったさまざまな知識や訓練方法によって、弓兵隊は大きく成長することになる。
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二年が過ぎた。ティグルとレグナスは十六歳になった。
秋、ブリューヌ軍はディナントの地でジスタート軍と戦った。
ブリューヌ軍の総指揮官はレグナス王子だった。万を超える大軍の総指揮官となるのははじめてだったが、戦自体はすでに体験している。これまでに何度か弓兵隊に同行したことがあったからだ。
ティグルはヴォルン家の軍ではなく、王子の従者という立場で弓兵隊を指揮することになった。ヴォルン家の軍は父ウルスが率いた。
そして、ブリューヌ軍はジスタート軍の奇襲をうけて敗れた。
数人の男女が足を引きずるようにして歩きながら、戦場を離れようとしている。
ティグルとレグナス、そして王子の護衛のジャンヌとリュディだった。レグナスは疲れきっていて、ティグルの肩を借りていた。
「レグナス……いえ、レギン殿下」
言い直して、ティグルは肩を貸している相手に呼びかける。その人物は若者ではなく、娘だった。
レグナスが、実はレギンという名の娘……王子ではなく王女であるとティグルが知ったのは、昨夜だ。
幕営が不穏な空気に包まれていたので警戒をうながすために王子の幕舎の中へ入ったら、上半身裸で、手桶に入れた水で身体を拭き、髪を梳いているレギンを目撃したのである。彼女のそばにはジャンヌとリュディがいて、騒ぎにならないよう、慌ててティグルを幕舎の中へ引きずりこんだ。
ブリューヌでは王女に王位継承権は与えられず、娘しか産めなかった王妃は蔑視される。
それゆえに、国王ファーロンは娘を王子ということにして育てたのだという。
その秘密を、ティグルは誰にも口外しないと誓った。
敵の奇襲があったのはそれから数刻後、明け方に近いころだ。
ティグルは弓兵隊の指揮官として、敵の奇襲を警戒していた。ブリューヌ軍の本隊は丘の上に布陣していたので、レギンの見た夢を参考に、弓兵隊のそばには穴を掘らせ、柵を立てて、敵が来ても迎え撃てるようにしていた。
だが、予想外のことが二つも起きた。
ひとつは、敵だ。奇襲をかけてきたジスタート軍の先頭にいた集団には、矢が当たらなかった。まるで、風が彼らの味方をしてすべての矢を吹き散らしているかのようだった。敵の先頭にいた白銀の髪と紅の瞳を持つ女剣士……おそらく戦姫は、長剣を振りあげて馬足を鈍らせることなく突っこんできた。
もうひとつは、味方だ。敵の奇襲によって混乱してまもなく、味方の兵たちがレギンを襲った。
ティグルは混戦の中で弓兵隊から引き離され、兄貴分と頼りにしていたガスパール=ローダントともはぐれ、孤立した。それからレギンとジャンヌ、リュディと再会し、とにかく四人で戦場から逃げたのである。弓兵たちが無事かどうかも確認しようがなかった。
「裏切られ、敗北して…」
疲れきった顔で歩きながら、レギンが悔しそうにつぶやいた。
「弓兵隊を、失ってしまいました」
「まだです」
ティグルは強い意志をこめて、否定した。彼女には前を向いてほしかった。
「昔、おっしゃったでしょう。弓兵隊は殿下と私のものだと。生きています。私も、殿下も。やり直せます」
レギンは答えない。だが、その足取りは力をわずかに取り戻した。
どこへ逃げるか、ティグルたちは話しあった。
南に行けばジャンヌの故郷があるそうだが、遠い。アルサスでは、裏切り者たちに狙われたらひとたまりもない。
このとき、裏切り者については、テナルディエ公爵とガヌロン公爵の二人だろうと、レギンは結論を出していた。
王都はまさに裏切り者たちがおさえているだろう。死にに行くようなものだ。
「西へ」
レギンは決断した。
「ナヴァール城砦に行きましょう。ロラン卿なら、確実に味方であるといえます」
それから二十日ほどかけて、数々の妨害を退けながら、ティグルたちはナヴァール城砦にたどりついた。
ロランはレギンたちを迎えいれ、裏切り者たちを討ち、王都と、囚われの国王を取り戻す戦いに協力すると表明してくれた。
また、ロランはティグルの無事を喜んでくれた。ティグルがザクスタンへ向かったとき、無事にたどりつけるよう力を貸してくれたのがロランだったのだ。彼は、ティグルの弓の技量に一目置いてもいた。
数日後、レギンは娘であることを隠し、レグナス王子として国内に檄文を発した。
さらに数日が過ぎたころ、ナヴァール城砦に二人の客人が現れた。
連れだってではない。ひとりはアスヴァールから、もうひとりはザクスタンからやってきたのだ。
「王子の従者のティグルヴルムド=ヴォルンはいるか」
ひとりは二十代半ばの長身の男で、長弓を担いでおり、異様に太い腕を持っていた。
「ハミッシュ卿! どうしてここに!?」
ティグルは驚きつつ、彼との再会を喜んだ。アスヴァールにいたとき、いろいろと教えてもらった弓使いだと、レギンたちに紹介する。
「私はエリオット第二王子と、ギネヴィア第一王女の部下として、レグナス王子にお力添えをするために来た」
ハミッシュはそう語った。彼はもともとエリオット王子に仕えているのだが、ジャーメイン第一王子に対抗しようと考えたエリオットは、妹のギネヴィアを味方につけようと考え、ハミッシュを彼女のもとへ派遣していたのである。そして、ブリューヌで内乱が起きたことを悟ったとき、ギネヴィアは「エリオットの利益にもなることだから」と、ハミッシュを説得して、ここへ派遣したのだった。
「ギネヴィア殿下からレグナス王子に伝言がございます。ジャーメイン王子が、ブリューヌの混乱に乗じて軍を差し向けてくるやもしれませぬ。ご用心なされよ」
ザクスタンからやってきたのは、二十歳にはなっていないだろう娘だった。軍衣の上に金属製の鎧をつけ、外套を羽織っている。腰には見事な装飾の剣を帯びていた。
「ザクスタンの土豪レーヴェレンス家の者で、ヴァルトラウテと申します。アトリーズ王子の命で、レグナス王子に協力せよと」
「ヴァイスじゃないか。あなたが来てくれるなんて」
ティグルは彼女を愛称で呼び、ハミッシュのときと同様に再会を喜んだ。アトリーズ王子が信頼している優れた戦士だと、レギンたちに紹介する。
女性であるからか、レギンはティグルに彼女とどういう関係なのか問い質したが、ヴァイスがアトリーズ王子と深い仲であることを知ると、安心したように笑顔をつくった。
「そういえば、ティグルヴルムド卿にアトリーズ殿下から伝言だ。またザクスタンに来てほしいと。私も同感だ」
「私などにありがたい言葉です。この戦いが終わったら、考えさせていただきます」
笑顔でヴァイスに答えるティグルを見て、レギンはひそかに頬をふくらませた。
こうして、ティグルとレギンの戦いははじまった。
この戦いがどのような結末を迎えるか、弓兵隊を再建できるのかは、また別の話となる。
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