2017年 09月 05日 ( 1 )
9月5日のお話
雪という言葉から、クール、冷たい、儚い、といったイメージを持たれることが多いと思います。漫画やアニメ等に出てくる雪女に明るい性格の子が多いのは、そういったイメージがあることを見越してのギャップ狙いかもしれません。
民話レベルでは昔から語り継がれていましたが、ひとつの話として確立されたのは小泉八雲の「雪女」ではないでしょうか。
ある冬の日、二人のきこり(老人と若者)が小屋の中で吹雪をしのいでいた。
夜、二人が寝ているところへ何ものかが忍びこんでくる。それは白ずくめの美女だった。
美女は老人の方のきこりに冷たい息を吹きかけて凍死させる。だが、若者の方のきこりに対しては「おまえは若いから殺さない。だが、このことを誰かに喋ったら殺す」と告げて去る。
その後、きこりの若者はひとりの美女と出会う。二人は恋に落ちて結婚して子供も生まれる。
ある晩、子供を寝かしつけた妻に、きこりは「そういえば昔、おまえにそっくりな女に会ったことが……」と昔のことを話す。
雪女は正体を見せて「その女は私。誰かに喋ったら殺すと言ったはず。だが、子供がいる以上、どうして殺せようか」と言って去る。
バージョン違いでは、二人組のきこりが親子であったり、「喋ったら殺す」ではなくて「喋ってはならない」という誓約に近いものだったり(その場合、破られた時点で雪女は去る)などがありますが、話の流れとしてはこんなところです。
お爺さんを凍死させた割に、男に対しては雪女の行動がずいぶん甘いというか、気まぐれのように見えます。ですが、
「超常的な存在(神、妖精、精霊、妖怪等々)との契約によって窮地を脱する」
「その契約を破ることによって、大切なものを失う」
というのは昔話においては王道で、その意味では筋が通っているのです。
男は雪女との契約によって凍死をまぬがれ、契約の破棄によって愛する妻を失う。
が、引っかかりを覚えるとすれば、契約の提案は雪女から割と一方的になされ(お爺さんが死んでいるので、男も助けてくれと望んだに違いありませんが)、契約の破棄後の対価の変更(男が死ぬのではなく、妻が消滅する)も、やはり雪女から一方的になされている点でしょうか。
視点を変えれば、男に惚れた雪女の努力の物語に見えなくもありません。一目惚れしたので契約を交わしてでも生きながらえさせ、姿を変えて出会いをやり直し、最後には男をかばって消え去る。少女漫画っぽーい。大事なのは掟やルールをどう運用するかなんやなって。お爺さん? 運が悪かったんだよ……(まあ雪女は吹雪の化身であり、バージョンによっては雪女は生命力を吸う、というものもあるので、年老いた方から寒さによって死んでいき、若者が生命力の強さで生き残るというのはわからんでもないんだけど)。
これに類型を求めるとすれば、外国産ですが、王子に会うために努力を重ねまくった人魚姫でしょうか。雪女は妖怪じみた(妖怪だからね)押しの強さでぎりぎりいいところまでいったんだけどねえ。
おはようございます。日本昔話というと雪女がありますが「殺そうと思ったがおまえは若いからやめておく」「あのときの出来事を喋ったら殺すと言ったが子供もできたからやめておく」という展開を見ると、掟やルールを上手く運用するには柔軟な判断こそが必要と思わされます。それでは本日もお仕事に。
— 川口士 (@kawaguchi_tsu) 2017年9月5日
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