一〇八(仮)

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ライトノベル作家川口士のブログです。「魔弾の王と戦姫」18巻、それから片桐雛太さんの魔弾画集、絶賛発売中です。よろしくお願いします。

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カテゴリ:新刊紹介( 83 )

4月20日のお話




 人間賛歌は命の賛歌。そのフレーズがふさわしい歌はこの「手のひらを太陽に」ではないでしょうか。暗い気分でいるときに手のひらに懐中電灯を当ててみたら血管が透けて見えたのでこんな詞にした、というやなせたかしのエピソードを聞いたことがあるのですが、又聞きのようなものなので、本当かどうかはわかりません。事実だとしたら、そこから真っ赤に流れる血潮って言葉を考えるのはすごいよね。というか真っ赤な血潮が見えたら割とやばいよね。
 それはそれとして、ものが透けて見える能力→透けすぎて困るという話はもはや一つの様式美と化していますが、黄金の手で苦しんだミダス王のように、過ぎた能力で困る、都合のいい話なんぞそうそうない、というのは大昔からのお約束なのでしょう。

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by tsukasa-kawa | 2018-04-20 22:19 | 新刊紹介

新刊紹介・他

 今年も残すところあと十数日となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。年末年始は休日にする旨を発表したお店など出てきまして、僕の見聞する界隈では話題になっていますが、個人的にはおお、懐かしいのうという感じで。
 というのも僕が小学生ぐらいの時分、まあ30年ぐらい前ですね、そのころはそういうお店が珍しくなかったんですよ、だから年末の時点で買うもの買っておかないと冬休みの宿題に必要な道具がないのが後でわかり、新学期開始ぎりぎりでようやく文房具屋が開くのを待って駆け込み~なんてことがありました。そういう意味ではコンビニの存在は非常にありがたかったのですが、当時のコンビニは二十四時間じゃなかったし、いまほど仕事量も多くなかったしで、いまのコンビニと同じように考えるべきではないのでしょう。
 年末年始は稼ぎ時ではありますが、それにともなって無茶ぶりも多発してしまうので、今回の件はいいことだろうと個人的には思っています。
 世間話がすんだところで、昨日の20日は富士見ファンタジア文庫の発売日でした。
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細音啓   キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦3

 1、2巻から変わってミスミス隊長が表紙を飾る3巻。次巻は来年の春頃予定だそうで。興味を持たれたらぜひ。

 さて、冒頭の挨拶で無茶ぶりについて昔語りをしましたが、フィクションにおいても無茶ぶりは珍しいものではありません。むしろフィクションだからこそ多用されています。「40秒で支度しな」「3分間待ってやる」などはとくに有名でしょう。3分で何ができるっちゅうねん(弾丸を装填したり滅びの呪文を教えてもらったり)。新しいマシンや設備、緊急時のシステム使用等における「○日かかります」「その半分でやれ」は、何らかの作品でお目にかかったことがあるのではないでしょうか。
 そして、それは教科書に載るような作品でも同様なのです。というわけで「スーホの白い馬」まいりましょうか。

 ある日、遊牧民の少年スーホは、草原で白い子馬を発見して連れ帰る。スーホは馬とともに寝起きするほど大切に育て、馬もその愛情に答える。
 数年後、領主が娘の結婚相手を決めるべく競馬大会を開き、スーホも白い馬とともに出場、見事に優勝する。
 しかし、領主はスーホの身分が低いことを理由に結婚を認めず、銀貨を3枚渡し、さらに白い馬を渡すよう要求する。スーホは断る。
 領主はスーホを痛めつけ、白い馬を奪う。命からがらスーホは自分の家へたどりつく。
 白い馬は領主のもとから脱走するが、領主の部下が射かけた矢を受けて重傷を負う。スーホのもとに帰ってきたところで息絶える。
 幾晩も眠れなかったスーホだが、ある晩、ようやく眠りにつく。夢の中に白い馬が現れ、自分の骨や筋を使って楽器を作ってくれと頼む。
 そうしてできたのが馬頭琴である。

 未知の楽器を作れっていうのはけっこうな無茶ぶりじゃねえかなあ……。
 いや、わかるんですよ。主とともにあることを望むって。でも、たてがみとか尻尾の毛を切りとって肌身離さずとかそんなんじゃ駄目なんけ? だいたい死んでから何日たっとるねん、君。「ご主人、まず埋葬した俺(いい感じで腐敗がはじまっていると思われる)を掘り返してバラしてくれ」ってハードル高いよ。家族からも「あの子は馬を愛するあまりついに……」とか思われるよ。
 未知とはいえ、さすがに馬頭琴がモンゴル族において原始の楽器であるとは思えません。ひとつの完成形となったのが馬頭琴だとしても、それ以前から部族ごと、あるいは家族単位でさまざまな名もなき楽器がつくられていたのでしょう。そう考えれば、スーホが馬への愛情から、これまでにない楽器をつくろうと思った、と考えることもできます。とはいえ、馬頭琴を作ったスーホも実際に弾いてみて「この筋は傷んでいてちょっと……」とか思ったこともあったのではないでしょうか。
 ひとつ間違えれば妄執になりかねませんが、おそらくここで終わっているからこそ美しいのでしょう、この物語は。



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by tsukasa-kawa | 2017-12-21 21:32 | 新刊紹介

新刊紹介・他

 10日ぶりです。時間のたつのは早いもので、気がついたら師走ですよ。今年中にあれとかこれとか何とか……といううちにどんどん時間は過ぎていきます。体力は年々低下する一方だというのにね! ごめんなさい、うん。

 そして、魔弾の最終巻や画集の感想、いただいています。本当にありがとうございます。いろいろなところで何度も書いていることですが、6年半もの間、よくつきあってくださいました。6年半といったら中学1年生が高校卒業しちゃってるからね。読者のみなさまにとっても長い戦いだったと思います。
 まだ書きたいことがあるといえばありますが、必要なことは書ききったという思いも同時にありまして。魔弾はこれにて完結です。あらためて、ありがとうございました。

 で、そんな感じで先月下旬から10日も過ぎていればそりゃあ次々に新刊も出ているってものでして、まずはそちらの紹介をば。
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瀬尾つかさ   いつかのクリスマスの日、きみは時の果てに消えて
          ニートの少女(17)に時給650円でレベル上げさせているオンライン

 左は先月末にファミ通文庫から、右は今月初めにスニーカー文庫からでございます。同じ人間が書いているのにタイトルがこうも両極端なのは小説の面白さのひとつでしょうね。ファミ通から出ているものはいわゆる過去に戻ってある出来事をやり直すSF、もうひとつは、うん、まあタイトル通りの話だね。興味がありましたら是非。

 さて。だいたい一ヵ月前の話なんだけど、覚えてるかな。僕は忘れていました。
 昔話のいいところは、一ヵ月前にネタにしたものでも風化しないところですね。なにせブツによっては二千年前から存在するからね!
 面の皮を鉄っぽくして、それではイソップより「酸っぱい葡萄」です。「狐と葡萄」と呼ばれることもありますかね。
 一匹の狐が、おいしそうな葡萄がツタから下がっているのを見つける。食べようとして何度も跳びあがるものの、どうやっても届かず「どうせこんな葡萄は酸っぱいに決まっている」と捨て台詞を吐いて去っていくという話です。

 台持ってこいや、台。
 同じイソップの話の中に、水が少ししか入っていない壺の中に石を次々に放りこんで水かさを増し、悠々と水を飲んだカラスのエピソードがありますが、その話とまるで対照的です。わかりやすさを求めて簡略化したものと思われますが、狐はただ跳びあがっているばかりです。台を用意する、大型の動物を誘導してその背中に乗る、石をくわえて首を振ってその遠心力で打ち落とす……。いろいろと手はありそうなものなのに。
 狐というと、おとぎ話や童話では知恵者の役目を割り振られることが多い印象ですが、この狐は正反対。愚直そのものです。

 どんなに望み、力を尽くしても手に入らないものというのは、たしかにあります。
 僕もかれこれ38年ぐらい生きてますが、いろいろなものを諦めてきました。そして、このお話のように自分にとっては必要なかったのだと考えるようにしたこともあります。もっとも、けっこうな過去になってから冷静に振り返り、あるいは他の手があったのではないか、と考えることができるようになったのも確かでして。

 この狐のお話が伝えたいことは、世の中には手に入らないものがあり、それを「自分にとって必要ない」と割り切ることで心の平安を得ることがある、というものなのでしょうか。ひとつの努力に邁進し続ける姿勢の危うさをこそ、説いているのではないか。
 ひとつのことを徹底してやり抜く。やり続ける。その姿勢を尊しとする言葉はいくつもあります。継続は力なり、がそうですし、石の上にも三年、も該当するでしょうか。ですが、それらの言葉において、正しい行動をとるのは、言うまでもないこととして考えられているのではないでしょうか。
 狐が他の手に訴えていたら、その先にはまた別のお話があったのかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-12-04 23:59 | 新刊紹介

新刊紹介

 実況? 何のことかね?(白々しい顔で

 あと15分と少しで日が変わってしまいますが、本日は拙著「魔弾の王と戦姫」18巻及び「片桐雛太画集」の発売日です。
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 2011年の4月にはじまった本作は、本日をもって無事に完結を迎えることができました。1巻の原稿を書いていたとき、売れなかった場合に備えて1巻~3巻で完結できるようにしておこうと、当時の編集担当さんと話しあったのが遠い昔のようです(まあ7年前だしね)。
 3巻どころか、この物語で書きたいと思っていたことを書き抜くことができました。6年半の長きにわたって応援いただき、本当にありがとうございます。こうして並べてみると、長い戦いだったと。みなさまにおかれては、この18巻までよく辛抱強くつきあってくださったと。幸甚の至りです。

 そして「片桐雛太画集」には、2014年5月発売の9巻から約4年、10冊にわたって本作のイラストを手がけてくださった片桐さんの数々の美麗なイラストがおさめられています。本作のイラストはもちろん、描き下ろしに加え、各種特典や冊子で描いていただいたもの、それから片桐さんがイラストを担当されていた「風に舞う鎧姫」のイラストも収録されています。また、僕も本編の後日談となる短編を寄稿させていただきました。個人的に最大の見所は、本作のイラストひとつひとつに片桐さんがつけてくれたコメントだと思っています。ともあれ、興味のある方はぜひ。

 朝の挨拶分がまあけっこうたまってはいますが、今回はこれのみで。というわけで新刊の紹介でした。

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by tsukasa-kawa | 2017-11-25 23:45 | 新刊紹介

新刊紹介・他

 拍手レス
>画集にある短編小説は、本編の後にストーリーですね。期待されます。王になった後、ティグルと戦姫たちの物語でしょうか? by 김영재
 ネタバレになってしまうので詳しいことはお話しできませんが、だいたいその通りです。楽しんでもらえたらと思います。

>もうじき魔弾最終巻ですね。毎度本当に楽しく読ませていただいてるので終わるという興奮と終わってしまうという寂しさと半々であります。
開けゴマは今や情報社会において半ば常識となった情報もまた財であるという事を昔なりに教えとして残すものだったのかもしれませんね。

 6年半もの間、魔弾につきあってくださって本当にありがとうございます。最終巻の発売まであと数日ですが、期待にお答えできる出来であればと。開けごまについては、その可能性もありそうですね。「アリババと40人の盗賊」の後半も、盗賊たちの情報を上手く手に入れたモルジアナが活躍する話でした。
 
>こんにちは。自分も昔から疑問に思っていましたが、胡麻ではなく、護摩なのではないかと考えています。祈祷ですね。秘密の呪文を訳すときに、護摩にしたのでは、と。根拠は何もないですが(苦笑) by 神崎みさお
 現地の言葉ではごまをシムシムと言いますが、シムシムには他の意味もあるのではないか、何らかの祈りの言葉に由来するのではないか、という説もあるそうです。ある種の文字や言葉が魔除けの力を持つという考えは、地域や文化の中にいまでも根強く残っていますし、その考えもおおいにありだと思いますよ。

 やあやあ一週間ぶり(ぬけぬけと)。更新しようしようとと思っていたのですが、どうも細かい用事がぱらぱらとあって落ち着かず、急な寒さからの疲れなどもありまして、なんだかんだ今日に至ってしまいました。いや、ごめんなさい。告知とかいろいろあるんですけどね。
 というわけで、もう5日前になってしまいましたが、17日は富士見ファンタジア文庫の発売日でした。
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石踏一榮  ハイスクールD×D24
      堕天の狗神 -SLASHDOG-

 石踏さんが二冊同時刊行ですよ。アニメ新シリーズも決まったハイスクールD×Dは表紙の通り白猫と黒歌回、リアスチームとヴァーリチームの戦いが繰り広げられます。そしてD×Dと世界観を同じくする新作、といっていいのかな、11年前に出した作品をリブートしたSLASHDOG。こちらはD×Dの4年前の世界のお話のようです。興味を持たれたら是非。

 そして、拙著「魔弾の王と戦姫」18巻の見本をいただきました。
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 今週末25日(土)発売となります。こうして並べてみると、長い戦いであったとあらためて思います。その戦いにつきあってくださったみなさん、ありがとうございます。どうか最後までともに歩んでいただければと。

 さて、もう一ヵ月近く前になりつつありますが、グリム童話から「かえるの王様」です。ものによっては「かえるの王子様」「鉄のハインリヒ」などと呼ばれることもあるとか。しかし、蛙ほど、マスコットになったり、不気味な生物として嫌われたりする生きものもなかなかないんじゃないでしょうか。服に張りついたり変身王子やったり宇宙軍人やったり、そういやクロノ・トリガーのカエルは頼もしい仲間だったなあ。脱線しました。「かえるの王様」はこんな話です。
 
 ある国の王女が、泉に金の鞠を落としてしまう。そこへかえるが現れて「自分を友達にして、同じ皿で食事をし、同じベッドで眠らせてくれるなら、鞠をとってあげる」と持ちかける。王女は鞠を取ってほしいあまり、うなずくものの、鞠を取ってもらうと、かえるをその場において帰ってしまう。
 王女がお城で食事をとっているところへかえるが現れ、約束の件を持ちだす。事情を聞いた王様は王女に約束を守るよう命じ、王女は仕方なくその言葉に従う。
 寝室に入ったところで、我慢の限界に達した王女はかえるをつかまえて壁に叩きつけるが、それによって呪いが解け、かえるは王様の姿に戻る。
 元かえるの王様は無礼を詫び、求婚して二人はめでたく結ばれる。
 翌朝、元かえるの王様の国から家来のハインリヒが迎えに現れる。ハインリヒは王様がかえるにされてから、悲しみで胸が張り裂けないように鉄の帯を巻いていたが、それが喜びによってはじけ飛ぶ。

 元かえるの王様(こう言わないとややこしくてね)さあ、友達に対する要求がちょっと高くないですかね。同じ皿で食事をして、同じベッドで眠るのはかなり親しくてもそうそうないのではないでしょうか。しかし、約束なのだからと王女の父が命じるあたり、このお話ではそれが普通なのかもしれません。たしかに筋は通っていて父親としても王様としても立派なのですが……。
 バージョンによっては同じベッドで寝るのではなく、かえるに王女がキスすることで呪いが解けるものもあるようですが、ロマンチックに見えて、ハードルが高くなっただけですよね、それ。呪いが解けたあとも、かえるとキスした女って陰口を叩かれることは必至です。
 壁に叩きつけるのはさすがにやり過ぎだとしても、王女の気持ちはわかります。かえるが喋るのは、まあそういう世界なのだとしても(そのこと自体には王女も驚いていないし)、ここまで図々しいと腹も立ちますよ。王女にとっては大事なものかもしれないので、たかが鞠とは言いませんが、かえると同じ皿で食事はきつい。

 それにしても、王様と、王様をかえるに変身させた魔女(バージョンによっては魔法使いともされているのですが、ここでは魔女にします)との間には、どのような因縁があったのでしょう。王様の行動から、呪いを解く方法を読み取っていくと「王女と友達になり、同じ皿で食事をし、同じベッドで眠り、潰される」となるわけです。実際には同じベッドで眠っていないので「王女の寝室で、彼女に殺される」あたりなのかもしれません。呪いが解けるまで事情を話さなかったことから、それについて言うことができない、というのもありそうです。
 考えれば考えるほど厳しい条件です。喋ることはできるし、かえるというだけで怖がられることもないので、友達になることは可能かもしれません。ですが、同じ皿で食事をするというところから、ぐっと厳しくなります。魔女は、おそらく王女の性格も読んでこの条件を設定したのでしょう。王女の父がいなければ、王様は詰んでいたのですから。
 もっとも、困難なものとはいえ、わざわざ条件を設定したあたり、魔女からは意地の悪さだけでなく、王様に機会を与えようという心情がうかがえます。それこそ魔女は、王様の友達であり、同じ皿で食事をし、同じベッドで眠る間柄であったのかもしれません。それなら、友達に対する要求が高いのも何となく理解できるのですよね。もとの話にはそういった点が書いておらず(書く必要もなかったのでしょうが)、不明のままですが。
 まあ、王女に対するアプローチを見ると、何かやらかしそうではあるんですよね、この王様。なりふりかまわず強引な手段とか普通にとりそう。
 王女と結ばれたあとも、はたしてめでたしめでたしと言える日々が続いたのか。このお話は、ここで終わっておいて正解だったのかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-11-22 02:47 | 新刊紹介

新刊告知・他

 やっほい、十何日かぶりー!(いけしゃあしゃあと
 原稿とかあってしばらく更新を中断していましたが、その間に見に来てくださった方はごめんなさい。10月分を残しまくっている間に11月も一週目が終わってしまっていて愕然としていますが、ぼちぼち再開します。
 まずは新刊のご紹介をさせてください。
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 お待たせしました。拙著「魔弾の王と戦姫」18巻。今月25日(土)発売となります。最終巻です。
 2011年4月に1巻を出したときは、ここまで長く続くシリーズになるとは思っていませんでした(そもそもシリーズになるかどうかさえわからなかったので1巻に1ってついてないし)。最後まで書ききることができたのも、みなさんの応援のおかげです。本当にありがとうございます。
 語りたいことはたくさんあるのですが、それは発売後にとっておくとして、もうひとつご紹介を。
『魔弾』の9巻からイラストを手がけてくださった片桐雛太さんの画集が同じく25日に発売します。
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 文庫に収録されていたイラスト群はもちろん、書き下ろしやイベント冊子に描いていただいたイラストなども収録されています。詳細はこちらを。
 原作者というおいしい立場から、すでに中を見せてもらっていますが、片桐さんのコメントもあり、見応えのある一冊に仕上がっていると思います。ちなみに、短編小説を一本、寄稿させていただいています。本編の後日談となるものですね。興味を持たれたらぜひ。

 さて、紹介を終えたところで、ペローまたはグリムより『青ひげ』です。
 三人の兄を持つ娘が「青ひげ」と呼ばれる大金持ちの男に求婚されるところから物語ははじまります。青ひげには、妻にした女性がたびたび行方不明になっているというあからさまにいやな噂があるのですが、彼の熱意に根負けして、娘の父は求婚を承諾してしまうのですね。
 青ひげが大金持ちであるのは本当で、新婚生活は不自由なく順調だったのですが、ある日、青ひげが「何日か留守にするので鍵を預ける。屋敷の中であればどこを見てもいい。ただし、ある部屋だけは開けてはいけない」と言って出かけるのです。
 もちろん娘は好奇心に負けてその部屋を見てしまうのですが、部屋の中には青ひげの妻だった女性の死体があったのです。驚いた拍子に娘は鍵を落としてしまい、鍵には死体の血がついて洗っても落とせず、その血がもとで、帰ってきた青ひげに言いつけを破ったことを見抜かれ、あわや殺されかけるのですが、そこへ駆けつけた兄たちに助けられ、青ひげは死亡し、娘は助かるのでした……。

 好奇心に負けてえらい目にあうという話は、古くからいろいろなものがあります。日本昔話ですと鶴の恩返しなどがそうですね。
「青ひげ」もそれらに漏れず、娘に対してあからさまに好奇心を煽っています。鍵を渡し、見てはいけないと言い、留守にする。鍵を渡されなければ、あるいは見るなと言われなければ、娘はそれほど気にしなかったのではないでしょうか。
 もっとも、これについては「娘が自分の言いつけを守ってくれるか見極めようとした」と見るか「言いつけを破ると見込んで積極的にお膳立てをした」と見るかで見方は変わってくると思います。金持ちは疑い深いから試したがるんですよねえ(思いこみです。
 それにしても不可解なのは娘の行動です。先妻(ということでいいんでしょう)の死体が見つかった時点で、もうなりふりかまわず逃げていいところですよ、この屋敷。季節とか先妻が行方不明になった時期とか書かれてないけど、新婚生活期間も考えればあきらかに腐ってるじゃん。ぶっちゃけ部屋を開けなくても腐敗臭でなんとなくわかりそうじゃない。部屋中に備長炭スメルの脱臭剤でもまかれていたんでしょうか。
 その点を考えると、好奇心に負けるとえらい目にあう、のではなく、危険を承知していながらぐずぐずしているとえらい目にあう、という、別の意味で現実的な教訓を、このお話は伝えている気がします。



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by tsukasa-kawa | 2017-11-07 23:59 | 新刊紹介

新刊紹介・他

 東京も明日ぐらいまでは暖かいようですが、週末はまた台風のおかげで雨になりそうですね。僕はすでに風邪をひいていますが、皆様はお気をつけください。
 ところで、昨日はMF文庫Jの発売日なのでした。
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細音啓   なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか?2

 改変された世界にただひとり置き去りとなったカイの冒険の物語。順調に2巻目です。興味を持たれたら是非。

 さて、落とし物を拾ってもらった、というぐらいの経験は誰にでもあると思います。交番に届けられるものだと、財布や携帯電話、傘、鍵などが多いそうですが、このあたりが落としやすいものなのでしょう。僕も、いつだったか駅を歩いていたとき、財布を落としたひとを見て、拾って渡したことがあります。
 あなたが財布を落とし、誰かに拾ってもらったとして。
「あなたが落としたのはこの(何かすごいブランドものの)財布ですか?」とか聞かれたら、どう思いますか。僕なら逃げるね、うん。何かたくらんでそうなんだもの。
 という前振りをしたところで「金の斧と銀の斧」です。有名なのであらすじは割愛しますが、まあ正直者が報われて、嘘つきは痛い目を見るという話らしいです。
 しかし、いくら神(原典だとヘルメス神)とはいえ、とりあえず欲を煽って誠実さを試そうというのはいかがなものでしょうか。まあギリシャ神話の神様って割とそんなのばっかだけど。それに、斧が落ちる過程については考慮されていないのも気になります。
 うっかり落とそうが、わざと落とそうが、神様は出てくるのです。つまり、神に対して敬意を抱いていようと、そうでなかろうと、そのときだけ誠実でさえあればよいのだ、ということになりかねません。まあその方がギリシャ神話らしいけど。
 だとすると、世の中には理不尽にひとの欲望を煽る何かがいるのだ、ということも、この物語の伝えたいことかもしれません。


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by tsukasa-kawa | 2017-10-26 23:59 | 新刊紹介

新刊紹介・他

 拍手レス
>北風と太陽は誰かと協力し合う事の大事さも読み取れる気がします。
勝負という形になってますけど北風と太陽というコンビとして見ると結果全勝ですしね。

 たしかにそうですね。異なる能力や技術を持ったコンビの活躍は物語の王道でもありますし「北風と太陽」は勝負を2回とも描き、それぞれの長所を見せることで完成するのでしょう。

 さて、本日はGA文庫の発売日だそうですね。

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手島史詞   魔王の娘を嫁に田舎暮らしを始めたが、幸せになってはダメらしい。

手島さんの新作は「左手に拳銃を握って右手で握手をするような人類に優しい少年が、大好きな女の子と敵勢力のクソ田舎で村人たちと仲良く新婚生活(仮)をする、アットホームなスローライフファンタジー」(あとがきより)だそうです。興味のある方はぜひ。

 さて。
 ひとには言えない秘密をお持ちですか。ついうっかり知ってしまった内部事情、おまえだけにと告げられた内緒話、丹念な調査の末に突き止めた真実、誰にも言えない事件の真相、知られたくない過去の恥。
 そういった秘密をひとりで抱えることに耐えきれず、誰かに打ち明けたことはありますか。
 では、ギリシア神話はミダス王のエピソードのひとつ「王様の耳はロバの耳」です。

 ある事件から、神によって耳をロバのそれに変えられてしまった王様は、そのことを隠して日々を送っていました。ですが、理髪師が王様の髪を整える際、ロバの耳に気づいてしまい、誰に打ち明けることもできず、木のうろに叫んだら、木のうろから「王様の耳はロバの耳」と聞こえるようになったという話ですね(誰もいない草原に向かって叫び、そこに生えていた葦がロバの耳を連呼したんバージョンもある)。
 このことは瞬く間に広まってしまい、王様は犯人をさがさせ、理髪師を捕らえますが、考え直して助命します。すると、耳は元に戻りました。

 秘密というものは、一度、外へ出してしまえば、もはや広まるのを防ぐことなどできないということなのでしょう。このひとならばだいじょうぶだろう、という考えは通用しません。木や草でさえ、黙っていられないのです。
 偽の秘密のパターンをたくさん、だいたい23、4ぐらいつくってごまかすという手もありますが、それは一時しのぎにしかなりませんし、本当の秘密を知ってしまった者からは反発や軽蔑を買うことになるでしょう。
 多くのひとに知られず、闇に葬られた秘密は数多くあると思われます。ですが、ひとが未来を完全に見通すことができない以上、いま誰かの抱える秘密がそのようになるかはわからないのです。それならいっそ、王様のように認めてしまい、寛容さを示すことで開ける道もあるのやもしれません。
 それにしても、木なり草なりが騒ぐようになってからの理髪師は生きた心地がしなかったでしょう。秘密を抱えるというのは、難しいものです。



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by tsukasa-kawa | 2017-10-13 23:58 | 新刊紹介

新刊紹介・他

 9月1日は防災の日らしいですが、昨今の情勢を考えるとこの機会に設備や道具の点検などをしておいた方がいいやもしれません。カップ麺はお湯が必要だから非常食にはなりにくいぞ? そのままかじっても喉渇くしね。
 時候の挨拶をライトにすませたところで、まずは本日が正式発売日なHJ文庫の新刊の紹介をば。
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 手島史詞  魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい? 3

 手島さんの魔王夫婦ものも順調に3冊目。コミカライズ企画進行中だそうですよ。 そういえば先日、この作品の略称について手島さんが魔奴愛と言い放ったので、それはやめておいた方が……と言いましたが、魔奴嫁とかに略して紹介してるひともいたりして、もう何でもいいんじゃないかと思いました。個人的には愛でればなどのひらがな多めが好きです。検索しにくくなるけどね!

 さて、脈絡なく話題を変えて、舌切り雀ですよ。昔話の中でもメジャーな話ではないでしょうか。
 昔々あるところに、心優しいお爺さんと欲張りなお婆さんという、揉めごと次第では離婚待ったなしな夫婦が住んでいまして、あるときお爺さんが怪我をした雀を連れて帰り~というところから物語がはじまります。お婆さんは雀が勝手に洗濯のり(炊いた米を潰して糊にしたものと思われる)を食べたことに腹を立て、舌を切り取るのですね。

 その後、お爺さんは雀をさがしに山へ入り、雀と再会し(説によっては、再会するまでに馬の血だの牛の小便だのを飲む羽目になる流れもある)、もてなしを受け、帰りに二つのつづらのどちらかを贈ると言われます。島耕作がアメリカで会ったホームレスに何となく親切にしたら、その正体は取引先のオーナーだったという話を思いだしますね。こうした話は時代に合わせつつ、世代を超えて語られるのでしょう。

 それにしても、優しくしてくれたお爺さんにも小さなつづらと大きなつづらを選ばせて試そうとするあたり、この雀、割とど畜生です。鳥類がど畜生なのは現代にかぎったわけでもないのですね。大きなつづらに妖怪が入っているとすれば(後々の展開を考えると、これが妥当)、お爺さんが「大きいのを持って帰ればお婆さんも喜ぶじゃろう。ちょっと頑張って大きいのを持っていくかのう」とか言いだしたらどうするつもりだったんだ。
 そうではなく、どちらにも金銀財宝反物類が入っているとすれば、いかにも小さい方を持っていかせようとしているふうに見えてけちくさい。
 ともあれ、お爺さんは小さなつづらを持って帰り、中には金銀財宝が入っていて、それを見たお婆さんは自分もと山中に入って雀と会い、大きなつづらを選び、中には妖怪が……となるのです。

 いかにもお婆さんが雀の舌を切ったことや、欲張ったことが悪いように描かれますが、前述した通り、雀もたいがいです。おまえ大金持ちで妖怪マスターのくせに、ただの雀のふりをして居候した挙げ句洗濯のりをつまみぐいしたのかよ。
 この話から導かれるのは、見た目で判断しては危険、ということでしょう。お婆さんも、遅くとも雀が人語を喋ったあたりで警戒すべきだったのです。相手の正体と能力をさぐり、見事に突き止めることができていたら、また別の物語が展開したかもしれません。



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by tsukasa-kawa | 2017-09-01 18:13 | 新刊紹介

8月18日のお話・他

 ここのところ不調で本屋に行けていなかったのですが、3日前の15日はノベルゼロの発売日だったのでした。
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細音啓   ワールドエネミー2

ハンターと怪異と呼ばれる怪物たちの戦いを描いた細音さんの作品も堅調に2巻目。今回の敵は人狼。興味を持たれたら是非。

 んでは、毎度の挨拶流れの駄弁りを。赤い部屋ですね。とあるアパートに引っ越してみると、壁に穴が開いてある。覗いてみると、それなりの厚さの壁な割に、穴は隣の部屋まで通じていて、穴の向こうは真っ赤になっている……という話です。
 いろいろと言いたいことはあるのですが、まず大家は新たな入居者が部屋に入ってくる前に壁の穴ふさいどけやと。これは赤い目の隣人もそう思ったのではないでしょうか。前のひとが引っ越していった、しかし壁の穴がふさがる様子はない、新しいひとが引っ越してきた、しかし壁の穴はやはりふさがる様子はない、それどころか新入りはしょっちゅうこちらを覗きこんでくる……。自分の方でまったく何の対処もしない赤い目のひとも駄目駄目ですが、新入りもあかんでしょうこれは。もうどちらが怪談かわかったものではありません。
 この赤い目のひと(多くの話では女性とされている)が、新たな入居者が入ってくる直前に急いで穴を開けた、という可能性もありますが、いつまでも穴をふさごうとせず、隣なのに挨拶にも来ない(今は行かないものなのだろうか)入居者に対して不審を抱いたとしても不思議ではありません。と考えると、現代のディスコミュニケーションが生んだ怪談といえるのかもしれません。まあ、引っ越した日に挨拶に行った隣人の目が瞳孔まで真っ赤だったら、何かの病気ですか、って質問からはじまって怪談じゃない別の物語が始まりそうですが。



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by tsukasa-kawa | 2017-08-18 22:38 | 新刊紹介